本研究の目的は,データ提供者の視点から,プライバシー保護が考慮されたデータ共有を組織に促し,さらに,その解析結果から,データ提供にその効用の実感を促すことで,データ流通の円滑化と利活用のための社会意識の醸成に寄与することである.そのために,(1)k-memberクラスタリング法に基づくk匿名化のアプローチを活用して組織間データの相互利用を促し,(2)対象ごとの観点から解析を行えるようグループ区間AHPを拡張して,提供者個人のデータと,自組織の個人識別性を有するデータ,さらに,他組織からの匿名化データそれぞれの相互関係や影響力を反映して提供者個人の特性を導く方法論を確立する. (1)組織間のデータ相互利用はある組織が別の組織が持つデータを自組織のために活用することだけにとどまらない.データから獲得される組織固有の知識が共有され,さらにはその融合により新たな知識の創発が期待される.そこで,学術的な異分野融合研究を例として,その確立までのプロセスをモデル化して各ステップの要件を洗い出した.その一つに知識のすそ野の広がりがあるが,これは区間AHPの根拠となる意思決定者は画一的な判断を持たずあいまいな概念で捉えているという知見と整合している. (2)分析のしやすさから定量化されたデータの収集に重きを置くと提供者に余計な負担を強いることがある.これでは提供者の現状をそのまま反映した精度のよいデータを得ることができない.そこで,データ提供のしやすさに重きを置き,扱いやすい定量データだけでなく定性データも混在していることを前提とした分析方法を提案した.また,特に定性データの取り扱いについては,従前より広く使用されている比率尺度に基づいたものに加えて,区間尺度が適している場合も取り扱った.多種多様なデータタイプの扱いを可能とすることで収集データの質の向上につながった.
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