本研究は、複雑な企業間サプライネットワークの構造がいかに創発するのか、その原理を追究することを目指している。そのために、企業の多角化・集中戦略に着目している。 これまでに、複数の自動車部品市場について、自動車メーカとサプライヤの取引データを収集・整理し、サプライヤの製品ポートフォリオの多角化・集中の戦略と、顧客の多角化・集中戦略の両者を統合的に測る指標を構築した。 一方で、サプライネットワークは、サプライヤだけではなく、当然買い手側(自動車産業の場合は自動車メーカ)の戦略も反映した構造を示している。今年度は、買い手とサプライヤの両者の戦略を、実データ分析と経営理論により捉え、サプライネットワーク構造の最小単位となる「モチーフ」を複数特定した。 サプライチェーンマネジメント研究では、この最小単位はトライアド(買い手・売り手2社の三角形)として長年捉えられてきた。また近年は、テトラッド(4社関係)として再提案がなされている。しかし、その議論は実データによる裏付けに乏しく、サプライチェーン全体への拡張性にも乏しい。一方で経済物理学的研究では、サプライチェーンの全体構造やそのレジリエンスに関するモデリングと検証は盛んに行われているものの、現実の企業が持つ資源制約や経路依存性には注意が払われていない。 本研究は、これらを繋ぐいわばメゾスコピックなアプローチとして位置づけられる。今年度までに、モチーフの特定が出来たため、今後はそれらをつなぎ合わせるメカニズムのモデリングに発展させていける目処が立った。
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