本研究の目的は,ウェアラブルセンサなどにより収集される機微度の高い個人情報(高機微個人情報)を対象とし,これらの情報を提供する個人ユーザ(データ提供者)と,その情報を収集・分析して目的を達成しようとする企業等(データ収集者)の間で,情報を効果的に流通するための枠組みを確立することであった.具体的な研究内容としては,近年整備が進むオープンな「データ市場」に着目し,その市場での高機微個人情報の取引を,情報の価値に応じた動的な効用(インセンティブ)の付与によって促進するメカニズムデザイン理論に基づく手法について研究を行った.また,データ提供者の代理となり機微度を考慮しつつ効用を最大化するエージェントと,データ収集者の代理となり効用を勘案しつつ,それに見合う獲得情報の質を最大化するエージェントとの間で自動交渉を行い,情報の価値決定と提供までを行う,マルチエージェントに基づく高機微個人情報価値決定システムの実現手法について検討を行った.また,これらの高機微個人情報の典型例であるヘルスケア情報に適用し,実現可能性についても検討を行った. 令和2年度と同様に,令和3年度においても新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況下にあり,研究推進に遅れが見られたが,本研究の最大の目的であった自動交渉によるインセンティブ付与の手法とそれをヘルスケア情報に適用する手法についての検証を行うことができた.今後は,これらの手法をもとに実用への課題などについても取り組んでいく予定である.
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