研究課題/領域番号 |
19K04896
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
石田 武志 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 教授 (50438818)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非平衡熱力学 / 散逸構造 / セルオートマトン / チューリングパターン / 自己組織化 / 確率格子モデル / 化学マスター方程式 |
研究実績の概要 |
生物や社会は局所的な相互作用から自己組織的に形成され、エネルギーと物質の代謝を行いながら自律的に駆動している。このような複雑な形態を自己組織的に構築する技術は、工学が目指す究極の目標の一つである。本研究は、「非平衡熱力学シミュレータ」の開発を行い、散逸構造が持続するための条件や、複雑に進化するための条件を検討する基盤を構築するものである。当該シミュレータは、要素の動きや相互作用を記述できるようにセルオートマトン(CA)モデルを用いた粒子モデルを基盤として、反応拡散方程式等による「形態を創発する自己組織化モデル」を組み入れ、さらに局所エントロピーを評価できるものを計画している。また複雑な形状を表現できないという従来のCAモデルの欠点を克服し、少数セルで多様な相互作用を記述できる「多ブロック型CAモデル」を提案し、形状の創発を「設計」するためのシミュレータを目指すものである。 2020年度においては、2019年度までのチューリングパターンを生成するCAをベースとした反応拡散モデルを用いて、タコの擬態の再現を目標として、チューリングパターン画像から形状パラメータを逆算することで、模様再現ができるモデルを構築した。画像からの特徴抽出と、特徴量からの画像生成を、フィルター演算という同じ数理フレームで表現することが可能となった(論文投稿中)。散逸構造が持続し、複雑に進化するためには、その形態を保存する情報子の創発が必要である(例えば、細胞ではDNAが必要)。このモデルは、散逸構造体が情報を記録するメカニズムの一端を解明することにつながるものである。また機械学習への応用という点でも、学習演算量が少ないモデルへとつながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」の実績として示したとおり、逆チューリング計算を簡易に行うモデルを構築し、論文を投稿している段階である。また「多ブロック型CAモデル」を構築するための基盤となるプログラムをほぼ完成することができ、細胞状の形態や情報子の創発現象などを再現することができつつあり、論文としてまとめる準備を行っている。また、これと並行して、多相な物理化学現象をあらわすために、格子ガスモデル(LGA)や、格子ボルツマン法(LBM)の適用の検討や、エントロピーモデルの検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、以下のことを検討している。(1)現在構築している「多ブロック型CAモデル」を用いて、生物細胞に近いより複雑な形状や情報子の創発を試みるとともに、これらの形態を制御することが可能となることを示し、論文として投稿する。(2)多ブロック型CAモデルにおいてエントロピー評価が可能なモデルを構築する。これにより、エントロピー生成率を定量的に評価できる基盤を構築する。(3)チューリングパターンの逆計算のアルゴリズムを検討し、形からパラメータを抽出する方法について、論文をとりまとめ出版する。これにより、形を記憶するメカニズムが分かり、遺伝子の創発などの検討が可能となると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目標としているシミュレータの基盤の開発や、その論文化は進んでいるものの、新型コロナウイルスなどとの関係で、学会発表、国際学会発表などの予定がとれず、旅費を中心に次年度使用額が生じた。2021年度においても、旅費の執行がうまくいかない可能性が高いため、研究公開について他の方法などを検討していく予定である。また「多ブロック型CAモデル」の計算を大規模に行うために、並列演算ができる計算環境の構築などを検討していく。
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