研究課題/領域番号 |
19K04899
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
牧本 直樹 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (90242263)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 時系列予測 / 金融時系列 / 投資戦略 / パフォーマンス評価 |
研究実績の概要 |
本研究は,資産運用における投資選択に際して,事前に予測した投資パフォーマンスと事後的に観測されるパフォーマンスの関係を調べることで,事前と事後のパフォーマンス評価の高度化を目的としている.本年度は,まず事前と事後のパフォーマンスの関係についての理論的な解析を行うとともに,並行して実データを用いた分析を実施した. 解析の結果,リターン系列が自己回帰過程などの標準的な時系列モデルにしたがう場合,ある時点までのデータで測定した投資戦略のパフォーマンスと,将来時点で予想されるその戦略のパフォーマンスの関係の強さは,一定の条件下で,時点差が拡大するにつれて減衰し,減衰の速さは元の時系列の性質に依存することが分かった.このことは,現時点までに観測されたデータにもとづいて複数の戦略の中からパフォーマンスが優れたものを選択したとしても,一定程度離れた将来時点においては必ずしも期待したぱパフォーマンスが得られるとは限らないことを示唆するが,一方で,時点差とパフォーマンスの関連性の強さの関係は戦略にも依存するため,現時点ではその関係を明示的に与えるには至っていない. 実データを利用した分析では,個別株式のリターン系列に対して,将来予測に利用する過去データの長さを変えながら,予測力の差異を測定した.結果は銘柄に依存するものの,比較的古いデータが予測力に寄与するケースもあることから,実際のリターン系列は自己回帰過程のような短期的な相関だけでなく,トレンドのような中長期的な依存性をもつ可能性も示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究全体を分析手法の観点から分類すると,事前と事後の投資パフォーマンスの関係性に関する理論解析,時金融市場で観測される各種時系列データを用いた実証分析,理論解析結果の確認と実証分析結果の考察を目的とするシミュレーション分析,の3つのフェーズに分けることができる.このうち理論解析についてはさらに2つのテーマに分かれており,今年度はそのうちの最初のテーマについて研究を実施し,上述したような基盤的な結果が得られたものと考えている.ただし,結果の精緻化や対象となる時系列モデルの拡張などの余地は残されており,またもう1つのテーマであるリスク尺度の事後評価について次年度以降に実施予定である. 実証分析はさまざまなタイプのデータや予測モデル,評価尺度の組み合わせを予定しているが,今年度は個別株リターンを対象として,理論研究に関連付けて事前・事後のパフォーマンスを比較する分析を実施した.その中では,予測手法の違いによる予測力の差についても検証している.またこれとは別に,債券データに対する実証分析も行っており,期間構造の予測に関する成果を得ている. シミュレーション分析は,現時点では株式リターンの予測手法の比較のための予備的分析として実施に留まっている.今後,理論解析と実証分析をつなぐための橋渡しとして本格的に実施する予定である. 以上より,3年間の研究計画の初年度としては概ね予定通りの進捗であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
現時点では,今後の研究計画は大きく2つのテーマから構成されるのもと予定している.1つは事後的なリスク尺度の評価方法の開発,もう1つはシミュレーション実験と実証分析の拡充である.このうち,事後的なリスク尺度の評価とは,ある投資戦略を一定期間運用した後に,運用期間中のポートフォリオの潜在的なリスク量を評価することを表す.ポートフォリオ運用では,過去データと予測モデルを組み合わせて将来のリスク量を予測するが,過去のリスク量については一定期間で測ることが一般的で,時点ごとには測定されない.本研究では,時系列分析における平滑化確率の概念を応用して,事後的に1時点ごとのリスク量を明らかにすることで,投資戦略のパフォーマンス比較を精緻化する方法を検討する. 次に,得られたリスク量の事後評価方法の特性や精度を検証するため,シミュレーション実験を実施する.シミュレーションではさまざまな特性の時系列データを生成することが可能で,かつ多様な投資戦略とも組み合わせられるため,事後評価方法を多面的に検証することができるものと考えている.シミュレーション実験が完了した段階で,これまでの研究成果と合わせて事前・事後のパフォーマンス評価のためも枠組を構築する. 最後に,株式や債券などタイプの異なる金融市場データに対する実証分析を行い,構築した評価の枠組の適用可能性を検証する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は実証分析用のデータを購入したが,当該データは研究代表者が参画している別のテーマの研究プロジェクトでも使用するため,今年度についてはそちらの研究プロジェクトから費用を支出し,次年度は本研究から出することとした.また発表を予定していた学会が,新型コロナウィルス感染防止のため中止となった. 本年度は理論解析を中心に研究を実施したため,実験用設備の購入は次年度に行うこととしたが,シミュレーション実験の具体的な内容が固まったため既に手配済みである.2年目以降に導入予定の設備やデータについては当初の計画通り実施予定であるが,新型コロナウィルスの影響により学会がキャンセルされるケースも想定されるため,オンラインで開催される学会などへの参加を検討する.
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