研究課題/領域番号 |
19K04903
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
一ノ瀬 元喜 静岡大学, 工学部, 准教授 (70550276)
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研究分担者 |
佐山 弘樹 早稲田大学, 商学学術院, 教授(任期付) (30345425)
伊東 啓 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (80780692)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 囚人のジレンマゲーム / 社会的ジレンマ / ゼロ行列式戦略 |
研究実績の概要 |
本研究では,クラウド型オンライン実験により,時間的に変動する実際の人間関係で生じる社会的ジレンマのデータを大量に収集し,ビッグデータ分析を行うことで,動的ジレンマを解決に導く頑健な人間関係のネットワーク構造を明らかすることを目的としている. 本年度は2年目であった.昨年度,社会的ジレンマにおいて近年発見された2人プレイヤーのゲームにおいて,どんな戦略を持つ相手にも必ず負けることはないゼロ行列式戦略について,現実的な設定として妥当な「ゲームが途中で終わってしまうかもしれない可能性」(割引因子)と「相手のとった行動に対する観測誤差」(観測エラー)の2点を拡張した研究を行った.これにより,このゼロ行列式戦略が,それらの拡張によって表現されたノイズを含む現実の生活においても存在することを解析的に明らかにした.本年度は,この2つの要因によってゼロ行列式戦略の存在条件がどのように変化するのかを解析的に調査した.その結果,割引因子や観測エラーがあるとゼロ行列式戦略が存在できる範囲が狭くなることが明らかとなった.具体的には,観測エラー率が上昇すると割引因子が高い状況(ゲームの割引きが少ない状況)でしか,ゼロ行列式戦略は存在できなくなった.また観測エラー率が上昇したり割引因子が減少したりすると,ゼロ行列式戦略が相手に強いることができる期待利得の操作能力が減少することも明らかにした.ゼロ行列式戦略は実際の人を使った被験者実験も行われており,今後はクラウド型オンライン実験を進める予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は時間的に変動する社会的ジレンマの根幹をなすゼロ行列式戦略について,数理モデルによる詳細な解析を行った.これにより,時間的に変動する社会的ジレンマの基本的性質が明らかとなったので,この点については,研究課題が順調に進捗していると判断できる. 一方,実際の人を使ったクラウド型オンライン実験については,社会的ジレンマの状況を示すシナリオの作成まで完了している.倫理申請も行った結果,この研究では申請の必要がないとの判断だった.あとは実際にオンライン実験を行うだけである.当初,共同研究者が所属するリスボン大学を訪れて綿密な研究計画を立てる予定であったが,現在のコロナ禍の状況で,訪問することができず,オンラインの実験計画が止まっている状況である.したがって,「やや遅れている」の判断とした.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,海外の共同研究者と連携し,まずはAmazon Mechanical Turk(MTurk)を用いた時間的に変動する社会的ジレンマの数十人規模の予備実験の実施を予定している.オンライン実験の実施に当たって,初期設定ではHITs(MTurk上のタスクのこと)の詳細を決めることが必要となる.現在のコロナ禍の状況では,共同研究者が所属するリスボン大学を訪問するのは困難であるため,オンラインミーティングによって詳細な実験計画を立てたいと考えている. 社会的ジレンマ状況を表すシナリオはすでに作成しており, これは社会的ジレンマのゲームの1つである公共財ゲームをベースにしたものとしている.次に,オンライン被験者の参加資格,募集期限,報酬等を設定し, HITsを完成させる.ここで,こちらの設定意図通りに実験ができるか確かめるため,予備実験の問題点を洗い出し,必要ならシナリオの修正を行う.最終版を完成させて,本実験へと移る.本実験は,全体で数百人規模を想定している.無気力回答を避けるため,被験者に実験の状況の理解を問う質問を課し,正答した良質な被験者のデータのみ採集する.同一被験者グループで実験を複数回行うことにより,他被験者が過去に採った戦略の情報に基づいて自分の戦略を変更するため,時間的にも変化する人間関係にも対応できる.実験後,ビッグデータの統計分析を行って,動的なジレンマの解決に有効なネットワーク構造を明らかにする.
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