研究課題/領域番号 |
19K04921
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片桐 祥雅 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 上席研究員 (60462876)
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研究分担者 |
光吉 俊二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (30570262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自動車運転 / 事故 / 高齢者 / 認知機能 / 刺激競合適合効果 / サイモン課題 / 脳波 / 深部脳活動 |
研究実績の概要 |
本研究は、自動車運転における危機回避能力の神経基盤を明らかにし、高齢者の安全運転に資する技術を創製することを目的とする。本年度は、ステップ動作を用いたサイモン課題を用いて、危険を予知しながらも回避行動を遂行できない行動障害の神経基盤の解明を実施し、以下の結果を得た。 研究に用いたサイモン課題では、被験者は文字による左右の指示に従いステップを行うが、表示位置と文字の左右の整合/不整合により指示に従った行動に障害が生じる。各々の足に装着した筋電センサーの信号解析により、文字の位置に対応したステップ動作の準備が刺激後100ミリ秒で発生し、整合の場合にはそのままステップ動作が開始されるものの不整合の場合には筋電が反転し正しい足でステップ動作が開始されることが明らかとなった。こうした初期のステップ準備に対応した筋電の応答は不整合刺激のない単純左右選択課題では認められなかったことから、刺激直後の筋電応答は視覚と体性感覚を統合する認知制御の一環であることが示唆された。この推察は、認知負荷の高い課題では意思決定が前倒しに行われるという既知の知見に一致する。一方、サイモン課題の不整合刺激に対する誤反応では、筋電パターンの反転は認められず、背側前部帯状回も脱賦活しなかった。これは、課題要求条件に対して適切な認知処理がなされず誤動作に至ったことを示唆する。 従来より、サイモン課題では刺激競合適合効果により整合刺激に対しては低負荷のルーチン的な反射処理がなされる一方、不整合刺激に対してはゴール指向の予測的認知制御がなされるという説が有力である。本研究の結果はこの説を覆し、不整合刺激に対しても整合性を検知して運動準備パターンを単純に反転させる反射処理により課題遂行が可能であることを初めて示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視覚と体性感覚の統合の破綻が危険を認識しながら適切な行動を速やかに表出できない遂行機能障害の原因となり得ることを明らかにし、当該年度に予定していた研究目標を達成することができた。不整合刺激に対する素早いステップ準備の反転については、刺激後100ミリ秒で両側に筋電が発生していることからミラーニューロンが関連した両側運動準備の一環であると考えており、引き続き神経基盤の解明を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
従来よりサイモン課題は刺激に対する競合反応の選択と抑制という脳機能のリクルートが必要であると考えられていたが、本研究により前頭皮質による迷い手の排除と先取り的運動企画による遂行が重要であることが明らかとなった。今後は、前頭皮質を中心とする脳機能ネットワークに係る訓練が危機回避能力の向上に有用であることを被験者試験により実証する。また、不整合刺激に対する素早い筋電の反転が不整合検知に基づくサリエンスネットワークの起動と誤反応回避のための行動変容の一環であると考えられることから、基盤となる脳機能ネットワークのモデリングを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
遂行機能に係る神経基盤の解明が順調に進み、被験者試験結果との突合のための打ち合わせを頻回に行った。コロナ禍下で緊急事態宣言がなされる中出張が制限されたため試験内容の打ち合わせを集中的に行い、前倒しで旅費等の費用が発生した。
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