研究課題/領域番号 |
19K04927
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
世木 秀明 千葉工業大学, 情報科学部, 准教授 (60226636)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 公共放送 / 非常放送 / 心的辞書 / 帯域強調 / 了解度 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
設備備品費によりDAコンバータ内蔵ステレオパワーアンプ,反応時間測定ソフトウエアなどを購入し,駅やホールなどのインパルス応答の畳み込み処理などを行い,実環境で聴取する環境に近い聴取実験用音声刺激を作成可能な音声処理システムと刺激提示内容の理解度や反応時間測定が可能な聴取実験環境を構築した. さらに,構築を行った聴取実験環境を使用して心的辞書と強い繋がりがあるとされる単語親密度について調査するために①20代健聴者を対象に,雑音環境下での同一のキーワード単語を使用した通常放送と非常放送文の了解度に関する聴取実験,②20代健聴者を対象に,雑音環境下での日本語と英語によるアナウンス文を用いた了解度に関する聴取実験,③65歳以上の高齢者10名と聴覚障害者1名を対象とした雑音環境下における周波数強調を行ったアナウンス文の了解度に関する聴取実験を行った. その結果,①の聴取実験では,通常放送で高い了解度が得られたキーワード単語が必ずしも非常放送文では高い了解度とならないことが明らかになった.この結果は,単語親密度が聴取する文章内容により変化することが示唆されていると考えられた.また,②の聴取実験では,日本語文章に比べ心的辞書を充分に使えないと考えられる英語アナウンス文は,日本語アナウンス文に比べその理解度が有意に低い結果となった.また,雑音環境下での英語アナウンス文の理解は,英語能力指標の一つであるTOEICの成績と高い相関を示した.さらに,③の高齢者と聴覚障害者を対象とした聴取実験では,2kHz~4kHz帯域を9dB強調したアナウンス音声は,周波数強調を行わなかったアナウンス音声に比べ,有意に了解度が高くなることが確認された.これは,周波数強調が加齢や聴覚障害が原因で低下した高域の聴取能力を補う効果によるものではないかと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に得られた聴取実験結果をもとに,さまざまな音声聴取環境下での音声知覚過程における心的辞書の活用のされ方やワーキングメモリーの処理能力,処理方法が加齢とともにどのように変化してゆくのかなどについて聴取実験を行い,その結果を基に検討する. これに加え,設備備品費によりHDV対応デジタルビデオカメラ,液晶モニターなどを購入し,視覚刺激を付加した聴取実験環境を構築し,視覚情報を付加した場合と付加しない場合などの条件での聴取実験を主に20代健聴者を対象に行い,聴取実験結果の検討を行う.検討結果から,必要であれば再度,刺激材料や手続きの検討や聴取実験を行う.その後,幅広い年齢層を対象として聴取実験を行い,加齢とともにどのように音声知覚特性が変化していくのかについて検討する.ここで,聴取実験は新型コロナウィルスの感染拡大予防を念頭に慎重に進める予定である. さらに,本研究で得られた知見をもとに,聴取しやすい放送方式や駅や街頭など公共施設における聞き取りやすく理解しやすい注意・喚起の行い方など,効果的で情報伝達に優れた音声情報伝達方式の提案を行うとともに,関係学会での研究発表などを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由):購入したDAコンバータ内蔵ステレオパワーアンプおよび,反応時間測定ソフトウエアが当初想定していた金額よりも安価であったことに加え,2月,3月に予定していた聴取実験を新型コロナウィルスの感染拡大防止のために中止したためである. (使用計画):令和2年度の研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め,当初予定通りの計画を進めていく.ここで、前年度から繰り越した研究費は,環境騒音収録やビデオ撮影に使用する音声記録用メモリーや映像記録用メモリーなどに充当する.
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