研究課題/領域番号 |
19K04929
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
斉藤 寛泰 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (80362284)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 爆発圧力緩和 / 水素ガス爆発 / 減災システム / ポーラス体 |
研究実績の概要 |
初年度は,ポーラス構造部材を壁面に設置することにより,密閉空間内で発生する水素ガス爆発の圧力上昇を緩和し,建物へのダメージを減らすことができるかどうかを小型モデル実験により検証した.まず,ポーラス体充填層(直径3,6,9mmのガラスビーズを使用)を壁面に設置した円筒定容燃焼容器内に理論混合比の水素-空気混合気を充填し,中心でスパーク着火させ,圧力センサにより爆発圧力履歴を計測した.充填層の設置面(円筒容器上下面の片方/両方),ならびに,設置の方向(鉛直/水平)を変化させ,最大爆発過圧力への影響を調べたところ,1)ポーラス体充填層を設置した場合は,設置しない場合の40%から75%程度にまで圧力を減少させられること,2)圧力緩和の効果は直径3mmのガラスビーズを充填した時に最大,直径9mmで最小となることが分かった.次に,ガラス配管を用いて,ポーラス体内の火炎伝播を調べる実験を行った.ガラス配管内をガラスビーズで満たし(空隙率は3mm:43%,9mm:53%),理論混合比の水素-空気混合気を充填した後,片端でスパーク着火した.その結果,3mmの場合は,ガラスビーズ充填層内部へ火炎が侵入できずにほぼ表層で消炎されるが,9mmの場合は,火炎が容易に内部を伝播できることが分かった.さらに,9mmのガラスビーズ充填区間内では,火炎速度が一旦増速した後に減速する挙動を呈した(このメカニズムは現時点で明らかではない).これらの実験結果から,密閉空間内爆発の圧力上昇が大きく緩和される要件として,1)爆発火炎の燃え広がりによって周囲に押し広げられる未燃ガスがポーラス体充填層内部に一旦隔離されること,2)その後に到達する伝播火炎を充填層表層付近で消炎させ,未燃水素ガスが隔離されている充填層内部に侵入させないことが挙げられ,小型モデル実験では,3mmのガラスビーズで可能となることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,当初の研究計画において設定した課題1(一次元伝播火炎とポーラス体の干渉)と課題2(三次元爆燃空間における効果)の2項目についての実験を実施した.先に実施した課題2の実験で,ポーラス構造体に見立てた3mmのガラスビーズ充填層の設置により,密閉燃焼容器内で生じる可燃性ガス爆発の圧力上昇を大きく軽減できることが分かった.しかし,6mm,9mmのガラスビーズでは,ほぼ同じレベルの空隙率にもかかわらず,爆発圧力のピークを下げることができなかったことから,爆発圧力の軽減にはポーラス構造体を構成する粒子径が重要であることが明らかとなった.この実験結果の要因を考察するために,ガラスビーズを充填した長さ1mの一次元ガラス配管を用いた火炎伝播の実験を行い,ガラスビーズ内を伝播する火炎を高速度カメラで可視化した(課題1).その結果,3mmのガラスビーズでは,伝播火炎がビーズ充填層内部に侵入できず,早期に消炎することが分かった.一方,9mmのガラスビーズでは,伝播火炎がビーズ充填層内部へ進行し,全領域を消炎せずにかつ高速で伝播した.このことから,項目2で観測された3mmビーズでの密閉空間内爆発の圧力ピークの大きな緩和は,ビーズ充填層の空隙に押し込まれた水素‐空気混合気に伝播火炎が進行しなかったことが要因であると結論づけた.以上の検証には2年目の計画を前倒しして実施したものも含まれており,得られた実験結果は今後の展開が期待できるものであった.また,初年度の実験結果について,カリフォルニア工科大のShepherd教授からもコメント,助言を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
初年度において,2年目以降の展開につながる良好な結果を得ることができたため,当初の研究計画の通りに進める予定である.ポーラス構造体の材質,ガラスビーズ充填層の厚み,水素‐空気混合気の初期圧力の影響等については未検討であるため,計画2年目では,まず,これらの影響を明らかにする.赤外線カメラにより,ポーラス構造体を伝播する燃焼波の観測を行った研究報告があるが,本研究では現段階ではうまく可視化できていない.ガラスビーズ充填層はじめ,複雑構造空間内の水素‐空気混合気中を伝播する燃焼波現象を明らかにすることが本研究課題の学術的側面の課題であるため,可視化方法を再検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置部品の製作費,消耗品費がごくわずか削減されたことで,若干の残金が発生したためである.
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