慢性透析患者全体に対し在宅血液透析を行っている患者はわずかである。この要因は複数あるが、穿刺作業の困難さが大きな要素である。穿刺技能習得の容易化や、将来的には自動化を目指し、その基礎研究として、「うまくいく穿刺」に共通する特性を明らかにしてきた。穿刺モデルを利用した実験的検討ならびに臨床的検討を通じ、モーションキャプチャによる穿刺針の動きや、エコーガイド下穿刺におけるプローブの動きを捉える検討を行った。また、臨床的検討ではNIRSを用いて穿刺作業中の前頭前野の脳血流変化を捉える検討を行ってきた。 穿刺針の動きで特徴づけられたのは穿刺針と水平方向(概ね表皮)の角度変化で、熟達度より施設間で顕著だった。また、エコープローブの動きでは、患者短軸(水平の左右)方向の加速度において、熟練者と初学者で異なる傾向であった。認知活動の指標である前頭前野の脳血流については、エコーガイド下穿刺の場合はタスクに関わらずエコーのモニタへ視線を向けている時に最も変化するのに対し、エコーを用いない通常の穿刺では、触知ではなく穿刺操作を行っている間の変化が大きい傾向であった。さらに穿刺が難航している時には変化が大きくなる傾向も観察された。エコーガイド下穿刺は多くの場合穿刺とプローブ操作を一人で同時に行うが、2人でそれぞれの操作を行う方法もあり、この場合は多重タスクではないものの意図の一致が問題になると思われる。本研究では十分できておらず、これについても検討する必要がある。エコーを用いると直接見ることができない体内が一部把握できるが、全体として熟練者はエコーに頼りすぎずに状況を把握していると考えられた。
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