最終年度は、歩道上を走行する自転車運転者が歩行者を回避する行動についての調査を行なった。上方からの動画撮影(巨視的計測)により、実際の回避行動の軌跡を観察した。自転車速度と回避開始距離の間には正の相関があった。比較的遅い速度で走行する自転車運転者でも6m程度手前から回避行動を取ることが多かったが、2m程度手前まで回避行動を取らない運転者もいた。また、アイトラッカーを用いた実験(微視的計測)を行い、自転車運転者が歩行者をどのように認識しているかについて実験を行なった。認識開始距離は自転車速度によってあまり変わらないことがわかった。このことは、自転車速度が速いほど、歩行者を回避するまでの時間的余裕がなくなることを意味している。一方、歩道幅が広いほど認識開始距離が長くなることがわかった。 さらに、自転車と歩行者が混在した歩道上の交通流を模擬するため、離散要素法による数値シミュレーションを行なった。自転車運転者の回避行動を表現するために仮想バネモデルを導入した。モデルのパラメータを決定するのに、上記の調査および実験結果を活用した。当然のことながら、自転車速度が速いほど自転車と歩行者の衝突頻度が高くなった。特に7m/s(25.2km/h)以上の速度になると、衝突頻度が急激に大きくなった。また、回避開始距離が2m以内では衝突頻度が高くなり、逆に5m以上であればほとんど衝突は発生しなかった。 研究期間全体と通じて、歩道上の歩行者および自転車運転者ならびにエスカレーター利用者について、各種挙動の巨視的および微視的計測を実施し、様々な有益なデータを得ることができた。さらに、それらのデータを活用した数値シミュレーションモデルの開発に着手することができた。
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