本研究では,災害時に迅速な避難を実現する誘導を目的として,音源を用いた積極的避難誘導システムの開発のための基礎的研究を行った.本研究で目指す避難誘導システムでは,多数のスピーカが対象施設にグリッド状に敷設されることを前提として,そのスピーカ上を走査する音源の流動によって避難者に避難方向を認識させる機能の実現を目指している.避難者が避難方向の認知や音源への追従を可能とする音源走査環境について以下の6つの実験を通して評価した. 走査音響刺激の位置・走査方向認識特性を評価するために,(1)走査された音響信号の走査方向定位特性,(2)スピーカ種別と走査パターン別の走査方向定位特性の比較,(3)走査速度の走査方向定位への影響,(4)実環境での走査速度と環境騒音の方向定位への影響をテーマにした4つの実験を実施した.また,走査音響刺激への追従特性を評価するために(5)音走査された音響刺激に対する追従特性,(6)実環境下での追従特性の評価をテーマにした2つの実験を実施し,これらすべての実験から得られた知見の成果報告を行った. 静音状態では,走査パターンに関わらず高い割合で走査方向の認識が可能であること,環境騒音の影響を強く受けること,走査方向の定位には一定の距離の走査が必要であることを明らかにした.また,先行研究として報告されている先行音効果を援用した避難誘導方式と提案方式で誘導方向についての認知特性に関して比較実験を実施した.提案法は,音源と避難者の位置関係の影響が小さいことを明らかにした. 本研究で走査音源を用いた避難誘導方法の可能性を評価した上で,その実現のための音源走査方法を明らかにしたことによって,新たな避難誘導法の実現について示唆する成果を得たことは意義があると自己評価している.
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