研究課題/領域番号 |
19K04944
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
廣田 光智 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (50333860)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波 / 消火 / 流れの可視化 |
研究実績の概要 |
本研究は、超音波を用いて固体、液体、気体中に形成される火炎を抑制あるいは消火させるという、水を使わない新規の消火方法の開発を目的とする。特に、超音波が作用する媒質の流れと火炎の関係から、超音波を作用させた火炎が消火に至るメカニズムを調査する。 2020年度は、光学的手法などを用いて流速あるいは密度分布の変化を測定し、超音波が作用した場合の流れ場の変化の様子を捉えた。超音波の照射により、振動面に垂直で振動子から離れる方向へ速度が誘起された。振動子中心軸上で0.6m/s程度と大きく、振動面の縁近傍では0.15m/s程度まで小さくなった。また振動面から垂直方向に30mmほど離れると誘起される速度も0.3m/sまで減速した。これらの誘起される速度の空間分布は、騒音マイクで測定される音圧分布と相関があった。振動面の軸に垂直な方向から酸素を一定速度で噴出させここを横切るように被覆電線を張って着火させた。火炎は被覆導線上を伝播するが、超音波の照射により流速が誘起されている領域では伝播火炎が横方向へ押し倒されて火炎が小さくなり、伝播途中で消炎した。ただし酸素流速が速く火炎伝播速度がある程度速い場合は、振動面の中心近傍で火炎がとどまるものの、あまり押し倒されず火炎が小さくならずにそのまま通過して消炎しなかった。シュリーレン光学系で可視化した画像から、超音波により火炎が押し倒されると火炎が被覆電線上部のみに形成され、伝播火炎の前縁の密度変化が小さくなるとともにすでに伝播してきた電線の被覆が気化せず溶けた状態で電線上にとどまることがわかった。火炎が一方向に押し倒されて被覆電線に沿った円周状の火炎から電線上部のみの火炎に遷移し、被覆の加熱が不十分となって消火に至ることがわかった。本研究の音圧ならば被覆電線上を12mm/s以下で伝播する火炎は消火確率が50%以上で消火可能であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では、2020年度は四つの方針を考えていた。すなわち、1)超音波によりろうそくの火炎が消火に至る範囲において流れ場計測を行う、2)超音波を照射しない場合の流れ場を計測し、超音波の有無による違いを調査する、3)火炎位置・火炎挙動・流れ場の変化を関連づけ、火炎が消火に至るメカニズムを明確にする、4)補足と次年度準備、である。このうち、1)は速度分布と密度勾配を測定し、超音波が空間中の流体に与える流れと、火炎面に及ぼす影響を調査した。2)は1)で得られた空間中の要素の変化において行い、火炎が消炎に至るまでの過程の物理的変化を抽出できた。3)は火炎位置を画像に時系列で記録して火炎挙動を調査するとともに、画像解析から火炎伝播速度を算出し、1)にて測定した流速分布などと関連付けて、被覆電線上を伝播する火炎が超音波照射によって消炎に至る過程を説明できた。4)は2020年度のコロナ禍の影響で全体的に実験回数が制限されているため、追加実験・補足実験を次年度に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画通り、2021年度は固体燃料・液体燃料・気体燃料それぞれを用いて火炎を形成させてこれを超音波で消火する試みをそれぞれ行い、消火活動直前の火源となる燃料形態の違いが超音波を用いた消火に及ぼす影響について検証することが目標で、四つの方針で進める。すなわち、1)固体燃料として紙片や木片を用いて火炎を形成し超音波による消火可能範囲を測定する、2)液体燃料としてエタノールプール火炎、被覆電線を用いた火炎を形成し超音波による消火可能範囲を測定する、3)気体燃料としてろうそくの火炎、同軸二重円形バーナを用いたメタン空気火炎を形成し超音波による消火可能範囲を測定する、4)火炎挙動と流れ場の変化の関係から、各燃料での火災時の超音波消火装置の有効性と照射最適条件を調査する、である。2020年度当初のコロナ禍により実験回数が制限されたため、その追加実験も同時に行う予定である。
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