研究課題/領域番号 |
19K04946
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
沖 拓弥 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 准教授 (40712766)
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研究分担者 |
小川 芳樹 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (70794296)
大佛 俊泰 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (00211136)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ビッグデータ / データ同化 / 機械学習 / 防災・減災 / 大地震 / 物的被害 / 避難行動 / リアルタイム予測 |
研究実績の概要 |
大地震時の物的被害および避難者一人ひとりの行動を記述する精緻な都市内広域避難シミュレーションの結果を集約し,大地震発生時の避難行動を,機械学習で得た計算量の少ない行動モデルで推定するための手法を検討した。 (1)東京都足立区千住を対象地域として,大地震時の異なる物的被害100ケースのシミュレーションを実行した。あわせて,津波浸水シミュレーション結果を入力可能となるようにプログラムを拡張し,南海トラフ地震時の津波浸水想定区域である高知市を例に,避難シミュレーション結果を蓄積した。さらに,構造や建築年代が属性情報として含まれない建物GISデータでも物的被害推定が行えるよう,建物外観画像から畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により構造・築年代を推定するモデルを構築した。 (2)人的被害(死亡者数および街路内閉じ込め者数)が最大である1ケース分の避難行動軌跡データを観測軌跡と想定し,避難行動軌跡予測モデルの構築を試みた。まず,避難行動軌跡群を,時系列クラスタリング手法の一つであるDynamic Time Warping(動的時間伸縮法)を用いて,比較的少数のパターンに分類した。これは,避難行動軌跡は本来非常に複雑かつ多様であるが,挙動の類似した避難者をある程度集約することで,機械学習モデルが軌跡データを学習しやすくするための前処理である。次に,時系列データ予測のアルゴリズムの一つであるLSTM(Long Short Term Memory:長短期記憶)を用いて,パターンごとの避難行動特性を時系列データとして学習させた。 (3) 構築したLSTMモデルを用いて,最初の5時点(2分30秒)分の正解軌跡のみから,避難行動軌跡をどの程度長く正確に予測できるかを検証した。その結果,巨視的な移動傾向はある程度予測できたものの,微視的には軌跡の予測誤差が大きくなるケースが散見された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
避難行動軌跡の予測に適した行動モデルの検討,および,深層学習分野における新しい技術の一つであるLSTMの文献調査および実装に想定以上の時間を要したことで,当初予定していた「機械学習とデータ同化(パーティクルフィルタ)手法の融合」の検討開始には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,2019年度に構築したLSTM による避難行動軌跡予測モデルを用いれば,巨視的な移動傾向は比較的精度良く予測できると考えられるが,各避難者の1時点ごとの軌跡の位置座標を精度良く予測することには限界がある。また,本研究課題の目的を考えれば,個々の避難者の移動軌跡を精度良く推定することよりも,地域全体の避難者数分布を,精度良くリアルタイムに推定できることの方が重要である。 そこで今後は,250m四方のメッシュ単位,あるいは,道路ネットワークの交差点・街路単位での避難者数分布の時間推移を,高精度かつ高速に予測することを可能とするために,LSTMモデルをベースに,CNNやグラフ理論などの考え方を組み込んだ予測モデルへと改良を試みる。あわせて,出来るだけ多くの想定のもとでの物的・人的被害シミュレーション結果を学習させることなどにより,未知の被害想定に対する予測精度向上にも取り組む。 また,人間行動の不確実性を観測値によって補正するデータ同化や,多数の学習モデルによる予測結果を統合して予測を行うアンサンブル予測などの実装に着手し,避難行動軌跡データを用いて予測精度の向上効果を検証する予定である。 適宜,人工知能応用およびデータ同化を専門とする若手研究者と議論を行うことで,2019年度よりも研究実施のスピードを加速させる。
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