研究課題/領域番号 |
19K04952
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
浅野 敏之 鹿児島大学, 地震火山地域防災センター, 特任教授 (40111918)
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研究分担者 |
長山 昭夫 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (40621438)
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (60709624)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 火山噴火災害 / 港湾防災計画 / 事業継続計画 / 移流拡散降下解析 / 潮流解析 / 漂流解析 / 航路啓開量の評価 |
研究実績の概要 |
東日本大震災等による港湾施設への甚大な被害を踏まえ、わが国の主要港湾では、大規模自然災害に対して事業継続計画(港湾BCP)を立案して備える体制が整えられつつある。しかし、想定する災害外力は主に地震・津波であって、火山噴火災害に対するBCPはほとんど検討されていない。鹿児島港は地域の物流の中心であるが、大規模噴火が予想される桜島火口から10km隔てているに過ぎない。そのため火山噴火災害が生じた際にも港湾機能の不全から速やかに復旧させる方策を立てておく必要がある。本研究は、鹿児島湾域に降下する火砕物(特に軽石)の風と潮流による流動メカニズムを明らかにし、港湾BCP立案に資する知見を得ることを目的とするものである。 昨年度は、噴火火砕物の大気中の輸送解析モデルを開発し、様々な風の諸元を与えて鹿児島湾内へ降下する火砕物の堆積層厚・堆積量の特性を明らかにしたが、潮流・漂流解析については概略的な計算結果を示すに止まった。本年度の研究では、噴火時の風向・風速を与えた時の降下軽石量の計算結果に基づき、風による吹送流を考慮した3次元潮流計算を実施するとともに、潮流による海域内軽石群の漂流計算を行った。その結果、鹿児島湾に降下した軽石群の潮流による漂流特性を明らかにすることができ、また沿岸部への打上げの集中箇所を特定化することができた。また港湾BCPの立案においては、噴火発生後の時間軸に沿った、航路・港湾内啓開に必要な揚収作業量・作業期間の評価が重要となるため、鹿児島湾内の港湾区域や航路に降下する軽石群総量の時間変化について定量的な評価を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)軽石群の風と潮流による流動機構 前年度の2次元潮流解析を発展させ、海上風による海面せん断力を考慮した3次元数値解析を実施した。潮位変動の計算結果を観測値と比較し、良好な再現性を確認した。風向・風速を系統的に変化させ、潮流流速の空間的・時間的特性に及ぼす影響を検討した。その結果、風の海面せん断力を与えると,無風時より表層流速が顕著に増加すること、風向の対岸部で沿岸に沿う流れが大きくなることがわかった。軽石群の漂流計算では、降下火砕物分布の計算結果に基づきトレーサーを初期配置し、潮流計算による海面流速を外力として、トレーサー群を追跡する解析モデルを確立した。 (2)狭窄部における軽石群の閉塞機構 海陸境界セルにおいてトレーサーの漂着個数をカウントし整理したところ、一部の沿岸区間に集中して漂着する結果が得られ、災害時の避難や物資輸送に支障をきたす箇所の特定につながる知見が得られた。西桜島水道の狭窄部で,潮流の入退潮とともに多数のトレーサーが集中して通過することがわかった。狭窄部における軽石の閉塞機構について、風洞水槽内に比重・寸法・形状の異なる軽石を投入し、風と波による移動特性、岸側斜面での堆積特性についての実験を行った。 (3)時間軸上での軽石群の物質収支の解明 対象海域は西桜島水道で桜島北部海域と南部海域に2分される。水道部における流出入が物質収支の評価に重要となると考え、両海域内の軽石総量の時間変化を調べた。その結果、南東風で桜島北部海域内、北西風で南部海域内に降下した軽石群は、時間経過後もほぼその海域に留まり、両海域間での交換は少ないことがわかった。湾口を通じて系外に流出する軽石量は小さいことが判明した。海岸部に漂着することが海域からの系外消失と仮定し、海域の軽石総量の物質収支を算定した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)軽石群の風と潮流による流動機構 本年度の漂流計算では、吹送流を考慮した潮流による軽石トレーサーの挙動を解析したが、海面上の風による軽石群への作用力は考慮しておらず、その要素を取り入れた解析の高精度化を行う。また、桜島大正噴火級の大規模噴火では、0.5立方キロメータのオーダーの火砕物が噴出され、そのかなりの部分が鹿児島湾に降下した。これまでの漂流解析では、それほどの大量の軽石群が海面に浮遊した状態を想定しているとは必ずしも言えず、固液混相体として捉えた2層流解析など解析の基本的な枠組みの見直しについても検討する。 (2)狭窄部における軽石群の閉塞機構 本年度の実験では、軽石の比重・寸法・形状を変え漂流速度に与える効果を検討したが、多数の軽石群が狭窄部に集中し閉塞する実験は行えなかった。実験水槽の一部で断面を絞り、波や流れによって輸送された軽石群がそこで閉塞される状況を実験的に調べる。またその成果を、数値解析の高精度化につなげる。 (3)時間軸上での軽石群の物質収支の解明 本年度の解析では陸域への打上げにより海域の物質量が時間とともに大きく減少する1結果を得た。しかし、この減少の程度は漂着条件の設定に大きく依存するため、次年度は陸上遡上地点の地形条件や漂流物に作用するさまざまな外力の考慮など、より物理的に忠実な漂着条件の設定を検討する。火山噴火後の港湾内や航路上の軽石群の揚収作業対象量を評価することは、港湾BCP立案にあたっての重要課題である。最終年度にあたって本研究成果がそれに資することができるよう、時間軸上での軽石群の物質収支に関して、(1),(2)の検討結果も総合して研究の取りまとめを行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で学会が中止またはオンライン実施となったため、旅費が不要となった。この残額は、次年度における研究成果の国際学術誌への投稿料や英文校正料などに使用する予定である。
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