研究課題/領域番号 |
19K04965
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
落合 伸也 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 助教 (10401936)
|
研究分担者 |
酒井 英男 富山大学, 理学部, 客員教授 (30134993)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 土砂流出イベント / 堆積物 / 大気由来放射性核種 / 磁化特性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、湖沼・貯水池・閉鎖性海域(湾)の堆積物に含まれる大気由来放射性核種Pb-210と磁化特性(帯磁率・残留磁化)を組み合わせた土砂流出イベント層の検出法を開発し、流域における過去数十年~百数十年間の土砂流出イベント履歴の復元を試みることである。 2021年度においては、石川県の七尾湾に引き続き、富山県立山地域の泥鰌池を対象とし、堆積物中の土砂流出イベント層の検出法の検討を行った。2019年に採取された堆積物コアについて、過剰Pb-210(大気由来Pb-210)濃度、帯磁率、粒径の測定を継続した。その結果、堆積物コアの過剰Pb-210の鉛直分布には、2つの急激な堆積を示す濃度異常層が見られ、ほぼ同層準で帯磁率、粒径にも変動が見られた。各イベント層の年代は2003年頃と1965年頃と推定され、このうち上部のイベントは2004年に観測された豪雨に対応していた。これらのことから、年代推定とともに直接イベント層を識別できるPb-210と、短時間で高分解能の測定が可能な帯磁率を組み合わせる本研究の手法は、観測記録と整合よくイベントを復元できており、本手法の適用により詳細なイベント層の識別が可能と考えられる。 また、堆積過程におけるこれらのパラメータの応答性を検証するため、2019年度から実施している石川県珠洲市の貯水池でのセディメントトラップによる沈降粒子の採取を夏季まで継続した。その結果、沈降粒子の帯磁率は夏季に大きく、冬季に小さくなる変動を示し、水文環境の季節変動との関連が示唆された。 さらに、1995年の兵庫県南部地震後に採取された貯水池堆積物への本研究の手法の応用を試みた。その結果、豪雨と異なり、地震による土砂流出では過剰Pb-210濃度の変動は見られるが、粒径や帯磁率には変動が見られないことが分かり、豪雨と地震による土砂流出を判別できる可能性等の新たな知見が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では石川県の七尾湾と富山県立山地域の泥鰌池を対象とし、(1)観測時代の堆積物コアとセディメントトラップ観測による、堆積物の放射性核種Pb-210濃度・磁化特性と豪雨記録の関係の検討(イベント層の検出法の開発)、および(2)より長い堆積物コアを用いた観測時代以前の土砂流出イベント履歴の復元を目的としている。2021年度には、堆積物の分析を継続するとともに、トラップ観測を年度前半まで継続し、土砂流出イベントの検出法の確立を行うこと、また、より長い堆積物コアの採取を計画していた。 2021年度には、泥鰌池にて採取された堆積物コアについて、過剰Pb-210(大気由来Pb-210)濃度、帯磁率、粒径の測定を継続した。その結果、堆積物コアの過剰Pb-210の鉛直分布には、2つの急激な堆積を示す濃度異常層が見られ、ほぼ同層準で帯磁率、粒径にも変動が見られた。各イベントの年代は2003年頃と1965年頃と推定され、このうち上部のイベントは2004年の豪雨に対応しており、本手法の有効性が示された。また、石川県珠洲市の貯水池にてセディメントトラップによる沈降粒子の採取を夏季まで実施し、沈降粒子の帯磁率と水文環境の季節変動との関連が示された。 一方で、予定していた長い堆積物コアの採取は、新型コロナウイルスの影響により延期となり、やむを得ず事業期間の延長を行った。代替策として兵庫県南部地震後に採取された貯水池堆積物への本手法の応用を試みた。その結果、地震による土砂流出ではPb-210濃度の変動は見られるが、粒径や帯磁率には変動が見られないことが分かり、豪雨と地震による土砂流出を判別できる可能性等の新たな知見が得られた。 以上のことより、長いコアの採取が次年度へ繰り越され、やや進行が遅れているものの、当初計画にはなかった新たな知見も得られ、最終的には計画に沿った成果を得られる見込みと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度から2021年度にかけて、七尾西湾および泥鰌池において堆積物コアを採取し、Pb-210濃度・磁化特性の測定から、両地域において過去60-80年間に複数の土砂流出イベント層を検出し、洪水・豪雨の観測記録との対比を行った。また、能登半島北部の珠洲市の貯水池において、セディメントトラップを設置し、毎月1回沈降粒子の採取を実施した。 2022年度においては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により延期となった、より長い堆積物コア試料を採取し、観測時代以前の土砂流出イベント履歴の復元を行う。特に泥鰌池においては、これまでのPb-210測定によって推定された平均堆積速度に基づいて、1m以上の掘削により、泥鰌池の形成時期とされる1858年まで遡ることができる可能性が示された。そのため、これらのデータを精査し、確実な試料採取のために採取地点の検討を行う。 一方で、状況が改善しつつあるものの、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により試料採取が困難な状況に備え、関連する他地域での試料採取、または過去の研究等によって得られている国内外の堆積物コア試料についても当課題の手法を用いて分析を行い、研究の遂行ができるように方策を検討する。 得られた結果については、分担者との議論を行うとともに、学会および投稿論文として発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初計画されていた試料採取、出張(調査、学会等)が延期となったことから、事業期間の延長を行うとともに、関連経費の次年度使用額が生じた。これらの経費は次年度に持ち越された、より長い堆積物コア試料の採取のための経費として使用する計画である。また、論文発表、学会発表等の経費としても使用する計画である。
|