本研究の目的は、湖沼等の堆積物に含まれる大気由来放射性核種Pb-210と磁化特性を組み合わせた土砂流出イベント層の検出法を開発し、流域における過去数十年~百数十年間のイベント履歴の復元を試みることである。 2019年に石川県七尾西湾にて堆積物コアを採取し、過剰Pb-210(大気由来Pb-210)濃度、帯磁率、粒径の測定を行った。過剰Pb-210濃度から最下部の年代は約70年前と推定された。この間4つの急激な堆積を示す過剰Pb-210濃度の異常層が見られ、同層準で帯磁率、粒径にも変動が見られた。これらは2018、2011、2002、1985年前後に発生した洪水に対応すると推定された。 また、富山県立山地域の泥鰌池にて2019年に採取した堆積物コアに同様の測定を行った結果、過剰Pb-210の鉛直分布には4つのイベント層が見られた。このうち最上層のイベントは2004年に観測された豪雨に対応すると考えられた。これらの結果から、年代推定とともに直接イベント層を識別できるPb-210と、高分解能測定が可能な帯磁率を組み合わせる本研究の手法は、高精度でイベントを検出可能と考えられる。泥鰌池コア中に見られた残り3つのイベント層はそれぞれ1960年代、1940年代、1920年代頃と推定され、およそ100年間にわたる土砂流出イベント履歴を推定できた。 1995年の兵庫県南部地震後に採取された貯水地堆積物へこの手法を応用した結果、地震による土砂流出では過剰Pb-210濃度には変化が見られるが、粒径や帯磁率には変動が見られず、豪雨と地震による土砂流出を判別できる可能性が判明した。 さらに、帯磁率・粒径の水文変動への応答性を検証するため、石川県珠洲市の貯水池で沈降粒子の採取を実施した。沈降粒子の帯磁率・粒径は降水量・流量と対応した変動を示し、これらの測定値が過去の豪雨等の推定に有効であることが確認できた。
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