研究課題/領域番号 |
19K04967
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇津木 充 京都大学, 理学研究科, 助教 (10372559)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 繰り返し空中観測 / ドローン / 阿蘇火山 / 九重火山 / 磁化構造解析 |
研究実績の概要 |
該当年度においては、当初、阿蘇火山を研究実施フィールドとして想定していた。しかし2019年2月頃から阿蘇火山の活動度が活性化しはじめ、4月には噴火警戒レベルが2に引き上げられた。また2019年5月より、降灰を伴う小規模噴火が断続的に発生する事態となった。この噴火活動は現在も継続している。降灰を伴う噴火活動が継続している状態では、ドローンを飛行させるにあたり機材の破損・墜落といった危険が高まるため、観測手法・観測方法の構築を検討するためのテストフィールドとしてはリスクが大きい。こうした事態により、阿蘇火山をテストフィールドとした事業の見直しが必要となった。この為、九重火山に於いてドローンを用いた空中磁気観測を実施した。九重火山では、1995年の小規模噴火以来、火山活動に関連した顕著な磁場変化が観測されている。また同火山では、火山活動起因の磁場変化がどのような空間分布を持つかを明らかにすることを目的に、2002年に有人ヘリコプターを用いた稠密空中磁気観測が行われている。このデータを元に、2002年から2019年までの間の磁場時間変化を、繰り返し空中磁気観測で検出することを目的に、九重火山に於いてドローンを用いた稠密空中磁気観測を行った。この観測で、火山活動起因の磁場時間変化を検出することが出来たとともに、ドローンを用いた空中磁気観測についての実際的なノウハウを極めて多く取得することが出来た。なお本観測は、文部科学省「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の事業の一環として行われ、必要な備品・消耗品の一部を本科研費予算から支出する形で研究に貢献した。 この他、繰り返し空中観測から得られた結果の定量解析を可能とするために、スパース正則化をベースとした磁化構造解析手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
● 当初テストフィールドとして想定していた阿蘇火山での活動活性化、降灰を伴う噴火活動の発生・継続により、阿蘇火山に代わり九重火山に於いてドローンを用いた空中磁気観測を実施した。九重・硫黄山火山を中心とした東西約1km、南北約2kmの領域に於いて、海抜高度1570mの一定高度で、東西側線をベースとした空中磁気観測を行った。尚、各測線の間隔は約100mとした。従来の地上観測の結果、硫黄山火山を中心に、地下の冷却に伴う地下岩石の帯磁を示すセンスの磁場時間変化が観測されていた。今回のドローンによる空中観測と、2002年に実施された有人ヘリコプターを用いた空中磁気観測データとの比較から、地上観測と調和的な磁場時間変化を検出することが出来た。
● 本来の研究計画では、火山の活動域上空でいくつかの繰り返し観測点を設定し、ドローンを用いそれらの点における静止観測を繰り返し行うことを想定していた。この目的のため、より位置決定精度が高いGNSSシステムを用いた位置補足が可能な観測システムを構築した。このシステムのテスト観測を2020年3月に実施予定であったが、コロナウイルス感染拡大の影響で実施することが不可能となった。このテスト観測は2020年度の早い時期に再開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に於いては、GNSSシステムを搭載したドローン空中磁気観測システムの性能評価を実施する。ドローンによる繰り返し観測では、指定された定点での静止飛行を繰り返し行い、その点に於いて磁場観測を実施する。そしてそれらのデータの比較から磁場時間変化を議論する。従ってドローンの静止飛行の精度が、検出可能な磁場変化の振幅に直接関係する。この時間変化検出の精度を向上させるため、上方接続手法をベースとした計測位置のブレ補正を本研究では提案している。即ち、設定された繰り返し定点の下方で稠密観測を行い、この観測から得られるデータの上方接続から、繰り返し点周辺の3次元的な磁気異常分布を推定する。この結果を、ドローンによる静止飛行のブレに伴う磁場データの擾乱を補正するために用いる。このフレームワークの有効性の実証、および実観測に適用するためのノウハウの蓄積を目的に、人工的な磁場擾乱の少ないフィールドでテスト観測を行う。尚、この観測に於いては(有)テラテクニカ社の協力のもと研究を推進する。
阿蘇火山では、現在も降灰を伴う噴火活動が継続している。こうした事から、当面の研究対象を九重火山に変更し、観測方法の確立のためのノウハウ蓄積、および九重火山の活動度のモニタリングを実施する。
本研究で提案している観測方法により、磁場時間変化が活動域周辺の多点で検出できることが予想できる。こうした観測結果から、どの深さで、どの規模で地下温度状態が変化しているかを定量的に解析するためには高解像度な磁化構造解析を行う必要がある。前年度に於いては、こうした目的に適用可能な高解像度な磁化構造解析手法を提案したが、今年度に於いてはこれをより精密化した手法を開発する。具体的には構造化L1正則化を主体とした新たな磁化構造解析手法を開発・公開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:1.阿蘇火山の噴火活動活性化により、当初予定していたドローンを用いた繰り返し空中磁気観測(空中の定点での静止飛行による繰り返し磁場観測)の実施が困難な状況となった。2.ドローン静止飛行の際の位置精度補償の技術開発のためのテストフライトを実施予定であったが、コロナウイルスの流行により実施が困難となった。
使用計画:1.については、阿蘇火山の噴火活動が静穏化し、今年度中に観測実施が可能な状況になった際に阿蘇中岳火口周辺で繰り返し空中磁気観測を実施する。それまでの期間に於いては、阿蘇火山に替えて、活動が比較的静穏な九重火山に於いて繰り返し観測を実施する。九重・硫黄山火山の周辺に空中繰り返し観測点を設定し、その点でドローンによる静止飛行をさせながら、ドローンに曳航させた磁力計で磁場を観測、この観測を定期的に繰り返し行い時間変化を議論する。コロナウイルス流行の収束具合を見ながら、今年度前半から本観測を開始する。2.については、今年度の早い時期に実施する。この観測では(有)テラテクニカ社の協力の下、テストフィールド(東京都)において試験観測を行い、観測・解析技術開発の参考資料とする。この観測についても、コロナウイルス流行の収束具合を見ながら、今年度前半に実施する。
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