ハザードエリアの土地利用規制効果を評価するために、エージェントベース型の将来人口分布予測モデルを構築した。まず、既往研究を参考に、500mメッシュ単位で整備された国勢調査データから世帯分類別の世帯数ならびに各世帯を構成する個人の年齢を焼きなまし法によって推計するプログラムを構築した。これにより、個人の年齢や居住地だけではなく、所属する世帯属性に応じて、ライフイベントに応じた居住地選択シミュレーションが可能となった。ライフイベントとしては、出生、婚姻、死亡、県内外への転入・転出を考慮した。出生率等の各種パラメーターを全国ならびに香川県の状況を参考に設定し、2040年までの香川県のシミュレーションを実施した結果、総人口や年齢別・性別については、国立社会保障・人口問題研究所のシミュレーション結果に近い値が得られた。災害による土地利用規制を考慮しないケースでは、現行の人口分布から各メッシュの人口が一律程度に減少していくことが観察された。一方、水害ハザードを対象に、想定最大浸水深が0.5m以下、1m以下のそれぞれの地域において新規移住を認めないケースでは、人口の空間分布が大きく安全な地域にシフトすることが確認された。しかし、人口減少の影響があるため地価の上昇は発生せず、事業所までの通勤距離の増加に伴う交通費の上昇が主な経済的な影響となる。以上、昨年度から検討を行ってきた水害の事業所への経済的影響に関する評価と合わせて、水害による中・長期的な経済的影響を評価するための基盤モデルが構築できたと考えられる。一方、人口分布の変化に伴う事業所立地の変化や建物ストックの形態(一戸建て等)の変化については、検討が十分に進まず、土地利用規制に伴う都市の構造物の変容の評価については課題が残る結果となった。
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