研究課題/領域番号 |
19K04975
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研究機関 | 熊本高等専門学校 |
研究代表者 |
岩坪 要 熊本高等専門学校, 生産システム工学系ACグループ, 教授 (60290839)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 落橋防止ケーブル / 耐震設計 / 引張実験 / 破壊力学 / 2016年熊本地震 |
研究実績の概要 |
橋梁の耐震設計では大地震に遭遇した時に落橋を防ぐ観点があり,最後の砦として機能するのが落橋防止システムである。2016年熊本地震では山間部の橋梁で落橋防止ケーブルが破断するという被害が発生した。そこで,この事実をふまえた既設橋・新設橋への適用を想定し,落橋防止システムの高機能化を目指した研究を主目的としている。本研究では,落橋防止システムとして機能する落橋防止ケーブルの目的機能を十分に発揮させるため,ケーブルに求める要求性能の確立を目指している。期間は3か年として①ケーブル破断条件と引張挙動の確認,②落橋防止ケーブルの地震時応答実験,③高性能ケーブルへの展開の3点について検討を行う。 2019年度は①ケーブル破断条件と引張挙動を確認する実験を行った。その結果,全体の耐力は構成している丸鋼(細線)の破断によって一時的に低下するが,残った丸鋼で耐力をある程度負担すること,傷がない丸鋼が同時に破断することはないことが分かった。 2020年度はコロナ禍のために,在宅勤務などの勤務状況の変化に伴い研究活動は停滞したが,既存の模型を使って振動台実験を行い,橋梁の横方向変位移動の拘束(低減)に落橋防止ケーブルが機能することが確認できた。 2021年度は,静的な荷重条件下で,ケーブルに軸力が作用している状態で面外方向から外力が作用する状況を再現する実験装置を製作し,破断に至る挙動と最大強度の変化を調べた。軸力や面外方向からの外力は油圧ジャッキを用いて手動で作用させることにし,ケーブルは市販のワイヤーロープを用いた。その結果,面外方向からの作用によって軸力が増加することが分かったが,ワイヤーロープが低強度であり,計測結果の確認が必要であること,傷の影響が確認できなかったため,再実験の必要性を考えている。 以上の結果,研究期間の延長が必要であると考え,延長申請を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れていると評価した。2020年度のコロナ禍の影響で行動制限を受けたため2021年度は実験を精力的に行った。これまでの検討の中で,振動台を用いた加振実験よりも,静的な挙動を調べた方がメカニズム解明には有用であると考えたたため,静的実験装置を考案し製作に取り掛かり実験を行った結果,いくつかの発見・確認が出来た。新しく製作した実験装置は大型・高強度供試体の対応は不可能であるが,難しい2軸方向の加力が可能な装置であるため今回の研究成果の一つである。ただし,固定治具の微調整が必要であり,その調整に難航した。さらに,実験データのサンプリング方法も検討の必要があることが分かったため,再実験の必要性がある。実験装置から得られた実験では,事前に想定していた状況が確認でき,引張部材として機能するケーブルであるため,面外からの作用によって軸力が増大すること,さらに傷の応力集中の結果,破断に至ることが確認できた。以上のことから,自己評価としてやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,①ケーブル破断条件と引張挙動の確認,②落橋防止ケーブルの地震時応答実験を経て,③高性能ケーブルへの展開の3段階の検討を行う予定としていた。全体の状況としては前述のように若干遅れ気味であり,未解決な部分もあるため,研究期間の延長を判断をした。これまでの研究成果をふまえながらも最終年度であることもふまえ,今後の推進方策として,次のように考えている。 これまでの経過の中で,②地震時応答実験を振動台で実施して予定していたデータを入手することが困難であることが分かった。しかしながら,動的な加速度の影響があることは確認できている。そこで,昨年度に引き続き,①の静的な引張挙動の実験を繰り返し行い,実験データの収集と評価方法について整理する。この静的引張実験では,再度ワイヤーロープを用いた修正実験と,実ケーブルを用いた引張実験を行うこととする。ケーブルの数値解析はモデル化が難しく,解析手法が広まっていない現実がある。そこで,完全再現は難しいが,耐力・挙動評価が可能となる数値解析手法についての提案を行う。その際に②の振動台による加振実験から想定する荷重履歴を設定することとする。また,③の高性能ケーブルの開発については,ケーブルそのものをターゲットにするのではなく,ケーブル設置装置の改良を考え,落橋防止システムとしての高性能化を目標とする。構造システムは既に考案済みであるため,この装置についての解析を進めながら本研究の研究目的の達成を目指すものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は実験室の改修工事,2020年度はコロナ禍のそれぞれの影響を受け,研究の進捗状況が芳しくなかった。また,情報収集や研究発表のための出張もすべて取りやめてきた。また2021年度に実験装置の製作から実験を行ったが,実施できなかった実験もあるため,次年度への繰り越しが発生した。研究期間を1年延長したため最終年度となる本年度は,次の経費として使用する予定としている。①数値解析の検討を進めるために,解析ソフトの整備,②実験装置である振動台と万能試験機の点検,③計測装置の更新,④実験に係る供試体作成と消耗品,が主たる経費の使用予定としており,研究成果としての学会発表は随時行うことにし,整理しながら本研究の研究成果として外部に発表する予定とする。
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