研究課題/領域番号 |
19K04981
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 博之 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (80224533)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マルテンサイト変態 / 潜熱 / 非定常熱伝達 / 蓄熱 / 自己組織形成 |
研究実績の概要 |
4種類の形状記憶合金,ニッケルチタン(NiTi),鉄パラジウム(FePd),マンガン銅(MnCu),銅・アルミニウム・マンガン(CuAlMn)のマルテンサイト変態を光学顕微鏡により観察した。DSCで測定した潜熱は大きく異なった(MnCu<FePd<CuAlMn<NiTi)。NiTiは購入し,MnCu, FePd,CuAlMnは純金属を溶解して合金を作製した。 それぞれ,高温のオーステナイト相の試料の表面を機械研磨および電解研磨で平滑にして,冷却によってマルテンサイト変態を起こし,その表面起伏による光学的なコントラストを観察した。また、市販のサーマルカメラにより表面の温度分布を計測した。NiTi合金では潜熱の排熱で局所的に10Kまで上昇することを確認した。 NiTi合金の動脈カテーテルは通電加熱により開口の動作をするが,この動作を形状記憶合金ばねの伸縮で模擬した。NiTiばねを自作して通電加熱による形状記憶動作を観察し,弾塑性力学によるモデル化を試みた。形状記憶合金のばねを考える前に,定式化の一般論を公開する必要があり,ピアノ線のばねについて非線形理論を論文で公開した。 フェイズフィールド法による相変態の非平衡緩和過程の計算と潜熱の伝熱方程式を連立させて一次元問題の解を得た。この解は単一平面のマルテンサイト/母相界面の伝達を表現する。NiTi形状記憶合金の超弾性について,フェイズフィールドによる界面速度の計算を行い,実測値と比較した結果を論文としてまとめている。 形状記憶合金の潜熱蓄熱効果の応用例を三次元有限要素伝熱解析で示した。エンタルピー曲線を厳密に定義して入力することでANSYSで解析が可能となった。アルミニウムとNiTi合金ワイヤの複合材料を考案し,ファン空冷との併用を考えてパソコンのCPUのヒートシンクをモデルとし計算機実験で蓄熱効果を初めて示すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に形状記憶合金の潜熱蓄熱効果を論文で提案したので、本年度は,研究目的に直結した実験,理論,計算を同時に着手した。年度内の論文の出版は1件にとどまったものの,進捗状況は今後の展開によるがおおむね計画通りと考えている。 実験では4種類の形状記憶合金試料を準備し基本的な物性値は収集した。今後,材料の問題はない。それぞれの変態潜熱は大きく異なり,NiTiとの比較が目的である。温度計測は,サーマルカメラによる温度分布の画像計測に着手した。NiTi合金では市販のサーマルカメラによる計測の論文がすでにいくつかある。現在,温度の校正や測定出来る温度変化の速度に上限がある問題を解決しつつある。サーマルカメラを顕微鏡と合わせて使用した観察技術は,形状記憶合金では論文がなく新規性がある。熱画像の位置分解能と温度分解能ができるだけ高くなるようにカメラの設定に習熟すれば結果を得て,新たな研究の展開を見込むことができる。 理論では,フェイズフィールド法を潜熱の拡散の熱伝導方程式と連立させた解を有限差分法で得た。界面の垂直方向の伝播は一次元的であり,界面を数学的に表現するための界面厚さや界面エネルギー,易動度などを他の相変態(凝固組織形成)と比較して議論することが出来る。マルテンサイト変態の外力効果について,一定の環境温度で一定の変形速度で引張変形したときに起こる超弾性の応力ひずみ曲線のシミュレーションすれば,実験結果と直接定量比較できる。 計算では,三次元有限要素非定常熱伝導解析を行った。NiTi形状記憶合金ワイヤとアルミニウムの複合体では,ワイヤの寸法と配置および接合面の接触熱抵抗が設計パラメータとなる。蓄熱効率を目的関数とした設計の最適化が課題である。少なくとも類似の研究はこれまで公開されていないので,潜熱蓄熱材料の具体的応用例として論文で公開する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
実験では,サーマルカメラによる熱画像の空間分解能の粗さを補うため,細径(0.15mm)の熱電対で温度を多点計測し,伝熱計算で連続的な温度分布を推定する。また,相変態ひずみをデジタル画像相関法(Digital Image Correlation: DIC)によって定量測定する手法を確立する。DICは弾性ひずみが計測できるので,光学顕微鏡によるマルテンサイトの表面起伏による光学コントラストの観察よりも精度が高い。熱ひずみの検出も可能であるので,相変態ひずみと熱ひずみの同時観察を試みる。 形状記憶合金のマルテンサイト変態は,冷却加熱による熱変態と外力による応力誘起変態があり,形状記憶効果と超弾性の原理である。変態潜熱による試料温度の局所的な乱れは,冷却中にも引っ張り中にも起こるが,温度場が等方的であることに対して一軸応力場には軸対称の異方性がある。その結果の組織形態の相違点を,サーマルカメラによる温度分布により明示する。 理論では,一次元のフェイズフィールド解析を二次元に拡張することによって,フェイズフィールドモデルの界面パラメータに依存して相変態界面の形状が変化する様子を調べる。また,実際の結晶を観察することによって,フェイズフィールドモデルの幾何学的パラメータの値を特定することができる。NiTi合金についてはフェイズフィールド解析の論文が既にいくつかあり,それとの比較となるが,実験との定量的な比較ができれば学術的な新規性はある。 計算モデルのNiTiワイヤとアルミニウムの複合材料は,単純なワイヤ配置についてはホットプレスと焼結により実物の作製が可能であろう。潜熱蓄熱効果のデモンストレーションを行うことができる。複合材の実物があれば,NiTi/アルミニウム接合界面の接触熱抵抗の大きさを実験で決定できる見込みがある。
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