研究実績の概要 |
本研究は、トポロジカル絶縁体中転位の特殊な金属状態の電子物性を定量的に評価すること、さらに、新奇な転位状態の応用の可能性を示すことを目的とする。本年度は、転位において特殊な金属状態が発現する条件を満たし得るトポロジカル指数(1;111)をもつPb-(Bi,Sb)-(Te,Se)トポロジカル絶縁体についてバルク絶縁性向上に関する実験を進めた。 Pb-(Bi,Sb)-(Te,Se)は、ポロジカル絶縁体の中でも転位に沿って特殊な金属状態が発現し得る数少ない物質の一つである。Pb-(Bi,Sb)-Teについては、これまでに得られたバルク絶縁性の高い結晶から剥離した薄片試料を用い、表面伝導率の温度依存性と磁気抵抗を測定した。その結果、表面2次元電子の弱反局在、および量子振動が観測された。また、極低温走査トンネル分光実験により表面状態の散乱機構についても明らかにした。 また、TeをSeで置換することにより、バルクのバンドギャップを増大させる効果があることが予測されている。さらに、Te/Seが秩序構造をとることによりバンドギャップが増大することが予測されており、我々はこれまでに走査透過型電子顕微鏡/電子エネルギー損失分光法を用いて秩序構造が形成されていることを直接観察している。さらにバルク絶縁性の高いPb-(Bi,Sb)-(Te,Se)結晶を得るために、原料組成を変えたPb-(Bi,Sb)-(Te,Se)結晶育成を行い、得られた結晶の組成分析、電気伝導評価を行った。幾つかの試料で電気伝導率の温度依存性が絶縁体的振舞いを示した。バルク電気伝導率が絶縁体的振舞いを示した結晶のマイクロサンプルの電気伝導測定を行った結果、局所的にバルク絶縁性の高い領域と低い領域が混在していることが明らかとなった。低温での磁気抵抗測定を行い、バルクの散乱機構の解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初、(1)Bi-Sb双結晶作製、(2)双結晶粒界に導入された転位の評価、(3)集束イオン/電子ビーム加工装置(FIB-SEM)を用いた微細試料作製、電気伝導度測定、(4)走査トンネル分光(STS)実験、を行う計画であった。昨年度は主に(1)を進めたが、今年度は、Bi-Sbに替わる候補材料であるPb-(Bi,Sb)-(Te,Se)のバルク絶縁性向上の実験を進めた。 Pb-(Bi,Sb)-(Te,Se)は、Bi-Sbと同様にトポロジカル絶縁体の中でも転位に沿って特殊な金属状態が発現し得る数少ない物質の一つである。バルクのバンドギャップがBi-Sbよりも大きいため、転位の特殊な電子物性を探索するための舞台として期待される。本研究では走査透過型電子顕微鏡・電子エネルギー損失分光法を用いてTeとSeの分布を調べ、理論計算によりバンドギャップの増大が期待される秩序構造が実際に得られていることを明らかにした。また、バルク絶縁性の良い結晶を得るために、原料組成を変えたPb-(Bi,Sb)-(Te,Se)結晶育成を行い、得られた結晶の単相性評価、組成分析、電気伝導評価を行った。その結果、幾つかの試料で電気伝導率の温度依存性が絶縁体的振舞いを示した。バルク電気伝導率が絶縁体的振舞いを示した結晶からFIB-SEMによりマイクロサンプルを切り出し電気伝導測定を行った。その結果、局所的にバルク絶縁性の高い領域と低い領域が混在していることが明らかとなった。低温での磁気抵抗測定を行い、バルクの散乱機構の解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】の冒頭に記した当初計画の(1)を引き続き推進し、これが達成された後、(2)、(3)、(4)を推進する。 (1)については、ホットプレスによるBi-Sb双結晶の作製に取り組む。これまでにホットプレス機の立上げが完了している。今後この装置を用いてBi-Sb双結晶を作製するため、条件出しの準備を進めている。 (2)については、透過型電子顕微鏡(TEM)試料作製およびTEM観察は常時可能であるので、(1)の転位列を含む双結晶が作製されれば、すぐに遂行可能である。 (3)については、微細試料の電気伝導測定用の基板は既に作製している。また、FIB-SEMを用いた微細試料の加工に関しても、塑性変形により転位を導入した試料を用いて十分に経験を積んでいる。(1)の転位列を含む双結晶が作製され次第すぐに取り組む予定である。 (4)については、Bi-Sb双結晶にこだわらず、これまでバルク絶縁性向上を進めてきたPb-(Bi,Sb)-(Te,Se)結晶を用いることを検討している。Pb-(Bi,Sb)-(Te,Se)の方がBi-Sbより劈開しやすいという利点があるため、走査トンネル顕微鏡内で清浄表面を得やすい。Bi-Sbと同様に、単結晶の塑性変形、導入された転位の解析を行う。その後、伝導転位を含む試料を用いて、走査トンネル顕微鏡(STM)観察による転位の位置の特定、低温STS実験による転位部分の状態密度の測定を行う予定である。
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