研究実績の概要 |
今年度はFe-Mn-Si合金が示すγオーステナイトとεマルテンサイト間の可逆的なマルテンサイト変態において発見された長周期積層構造(LPSO: Long-Period Stacking Order)構造相の安定性とその起源を明らかにすることを目的に研究を進めた。γ -> ε変態では, γ相(fcc構造)の{111}最密面の原子積層はABCABC…であり, 2層おきに積層欠陥(ショックレー部分転位)が導入されることでε相(hcp構造, ABAB積層)が形成される。この合金において繰り返し引張圧縮変形後に2H(hcp)構造であるε相の3倍周期の電子線回折パターンを示すことから, 我々はLPSO構造に類似した相である可能性が高いと考えている. 本研究では6H1と6H2, 4H (dhcp), 10Hをもつ純鉄の構造モデルを構築し, 第一原理計算により相安定性を調べた. 今回、6H1および6H2構造における安定な反強磁性構造を網羅的(ハイスループット)な探索を実施した。6H構造が取り得る反強磁性秩序パターンは2^6=64通りで、上向きスピンと下向きスピンを入れ替えたパターンは等価なので1つの6H構造につき32パターンを計算した。その結果、6H1構造には2つ、6H2には1つ, hcpまたはfcc構造とエネルギー的に近い反強磁性パターンを発見することができた。その中でも, 反強磁性状態をもつ6H2構造が hcp構造にエネルギー的により近いことがわかった. このことからε’相は, 6H2の積層構造を持つ可能性が高いと考えられる. また, 相安定性は, hcpおよびLPSO相が示すフェルミ準位を境にした状態密度の谷の深さと密接に関係していることを示した.
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