研究実績の概要 |
今年度は長周期積層秩序(LPSO)型Mg-Zn-Y合金系におけるZn原子の役割を明らかにすることを目的に研究を進めた. 第一原理計算手法に基づきLPSO構造中にZnの原子空孔を導入し,組成を変化させた場合における構造安定性と電子状態を調べた. 18Rと14H構造を有するMg-Zn-Y合金の状態密度(DOS)は, フェルミ準位(EF)近傍のDOSに切れ込みが存在するが, その最低位置はEFよりも0.2eV程度エネルギー的に高い. このことから我々は, この系に電子ドープ欠陥が導入された場合に, EFがDOSの最低位置に近づき, LPSO構造相を安定させる可能性があるのではないかと考えた. そこで18R構造をもつMg-Zn-Y合金にZn原子空孔(x = 1~6)を導入した構造の安定性を調べた結果, 空孔を有する全ての状態は熱力学的には不安定であり, x = 0相(Mg58Zn7Y8)と単体Mg+Y金属相に相分離した方が安定であることがわかった. 一方, Mg母体中にY-Zn溶質元素クラスタが生成された状態を考え, MgとYの比が一定でZn原子量が変化した場合の凸包曲線は, x = 1とx = 3のZn原子空孔状態が安定に存在できることを示した. このことは, 相分離するような高温下でなければ, x = 1とx = 3の状態が出現可能であることを示している. さらに電子状態との対応を調べた結果, Zn空孔が増加するとZn原子に最も近いMgのp軌道のDOSの谷が広がることがわかった. これはZnのp軌道がMgのp軌道との結合状態をフェルミ準位よりも1eV低いところで形成し, その裾野がフェルミ準位近傍にくるために谷構造が現れたと考えられる また, 空孔が導入されるとMgとZnの原子間距離が減少していることから、MgとZnの結合が構造安定性に重要な役割を果たしていると結論づけた.
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今後の研究の推進方策 |
今回, 18R構造をもつMg-Zn-Y合金という代表的なLPSO合金におけるZnの役割に焦点をあてたが, 3d遷移金属(M)の種類をCo, Ni, Cuに変化させた場合における構造安定性と電子状態の変化を系統的に調べ, 結果を論文にまとめていきたい. すでに一部の計算は実施しており, 18R構造の場合, Mの種類にフェルミ準位近傍の電子状態があまり依存しないが, 10H構造の場合には溶質元素の効果が大きく, MがNiとCoの場合, フェルミ準位近傍に深い切れ込みがあり, 溶質原子がY原子がつくる平面内から飛び出さない構造が準安定となることを見出している.
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