研究実績の概要 |
長周期積層構造(LPSO)を有するMg-Y-Zn合金は、Al添加により高い降伏強度を示すことや腐食挙動が改善することが報告されている。本研究では、Al添加がMg-Y-Zn合金の腐食特性を改善する要因を明らかにすることを目標に、第一原理計算手法を主たるアプローチとして研究を進めた。この合金系においては、α-Mg相とLPSO相との相間電位差が腐食速度(ガルバニック腐食)に大きく影響を与えることから、相間電位差の低減が耐食性向上の課題と考えられている。そこで第一原理計算を用いてhcp-Mgと種々のLPSO合金の仕事関数差を明らかにし、仕事関数差が小さい組成を見出すことで相間電位差の低減につなげることを目標とした。 はじめに第一原理計算手法に基づき安定なAl置換量を凸包線(Convex hull)を用いて調査した。具体的には、LPSO型Mg合金中に存在するL12クラスターのZnサイトをAlが置換した場合を考え、Al置換が構造安定性に与える影響を調べた。Mg58Y8Zn7-xAlx合金のAl置換数をx = 0, 2, 4, 6, 7と変化させた場合、x = 2と x = 4の相が安定となることがわかった。次にいくつかの表面スラブ構造を構築し、仕事関数を評価した。その結果、クラスター内のAl原子増加に伴い、純Mgとの仕事関数差が減少することを見出した。また、仕事関数は溶質原子の種類よりもスラブ内の構造に強く起因するということも明らかとなった。これはZn原子はL12クラスター内でYがつくる平面から外に飛び出した安定構造をとるのに対し、Al原子は最密面内に留まろうとする構造的な違いに起因していると考えられる。以上のことから、Al添加はLPSO合金中の局所構造を制御し、相間電位差を低減する役割を果たしていると考察した。
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