二次イオン質量分析法(SIMS)により,α鉄およびγ鉄中のホウ素(B)の拡散浸透プロファイルを測定し,拡散係数を評価した.試料構成をAl2O3 (30 nm)/Fe-B(150-200 nm)/FeおよびFe合金とし,主に[1][2][3]の実験を行った.Al2O3は拡散源のFe-B層からのBの揮発を防ぐ層である. [1]α鉄での900℃以上の測定温度域への拡張をねらい,アルミニウム(Al)を添加した固溶体Fe(Al)での実験を行った.800℃で3 h 拡散焼鈍したところ,Fe-B層とFe(Al)の界面でBとAlが反応した形跡が見られた.予期せぬ反応が生じたためにFe(Al)での実験を断念した.[2]2020年度より,従来の四重極型SIMS から,分解能に優れる飛行時間(TOF)型のSIMSへの機種変更があった.新機種を利用して行った結果,分解能と再現性の高いデータが得られるようになった.そして,800℃以上で30minの拡散焼鈍により,Bの鉄内部への拡散よりも外界への揮発が優先することが明確になった.この結果を受け,2021年度には揮発の寄与を避けるため600℃から700℃の低温に限定して純鉄での測定を行った.複数の個体から得た濃度プロファイルは概ね一致し,拡散係数は10-20 m2 s-1から10-18 m2 s-1と得られた.これらはα鉄の自己拡散係数の1/5程度であった.[3]γFeNi(濃度50 at. %)合金を作製し同様の実験を行った.600℃から700℃の拡散係数は10-20 m2 s-1から10-19 m2 s-1となりα鉄中のBの拡散係数の1/2程度の大きさであった.ただし,データの再現性の検証には至っておらず,試料構成の見直しを含めた継続の実験を進行中である.
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