研究課題
構造材料として用いられる元素のうち、体心立方格子(BCC)構造を持つものは限られており、鉄を除いて遷移金属元素ではValence Electron Concentration(VEC)で分類されるように、第5族と第6族にある元素に集中している。BCC構造を持つ転位の特性を包括的に理解するため、昨年度検討したタングステン合金にとともに、鉄とモリブデンを加えて、第一原理計算に基づく転位構造の解析を行った。らせん転位の局所的な変位からDifferential displacement(DD)ベクトルを用いて転位芯構造を解析すると、転位芯の構造にほとんど違いがなく、BCC金属の転位は,Takeuchiが予測した分極のないコンパクトな構造をとることが確認された。また、直線のらせん転位が任意の面を運動するときのエネルギー障壁を2次元Peierlsポテンシャル面と定義して、これを拘束付き緩和計算によって求めた。BCCにおけるらせん転位の最安定の転位芯は、Easy coreと呼ばれる状態であり、Split coreとHard coreでそれぞれ極大点をとる。古典的な経験ポテンシャルを用いた分子動力学計算では、転位の最小エネルギー経路が(112)面に沿っているということが古くから報告されているが、第一原理計算からすべてのBCC金属で、Split coreで最大となることが示された。また、転位運動の鞍点はHard coreとSplit coreの間に存在することに加えて、鞍点の位置は構成元素の電子状態によってわずかに異なることがわかった。これらのPeierlsポテンシャル面上の最小エネルギー経路の情報を用いて、転位の一次元運動を仮定した場合の負荷応力に依存したキンク形成の活性化エネルギーの評価を可能にした。
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