研究課題/領域番号 |
19K05000
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
宮嶋 尚哉 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (20345698)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水熱処置 / ポーラスカーボン / ヨウ素 / モルフォロジー制御 |
研究実績の概要 |
ポーラスカーボンのバルク形態とナノ空間の両モルフォロジーを同時かつ高度に制御可能な合成技術の確立と,その新たな用途拡大を図ることを目的として,令和3年度は以下の項目について検討し新たな知見を得た。 (1)セルロースカルボン酸塩の水熱改質:初年度の検討課題について,原料のエステル化度(DS値)の影響を詳細に調べた結果,誘導したカーボンの更なる多孔質化には,水熱処理時に生成する有機酸のpH値が重要であることが再確認できた。また,この細孔容量の増加によって硫酸水溶液中でのキャパシタ容量が増加した。 (2)イオン交換樹脂のヨウ素化:強酸性陽イオン交換樹脂をヨウ素化することで,スルホ基が炭素内に取り込まれた,S-含有球状活性炭を得ることができた。一方,陰イオン交換樹脂では,いずれもヨウ素処理と炭素化によって球状のガラス状炭素(ハードカーボン)に変換され,市販のガラス状炭素と同程度の耐酸化性を有することが示唆された。 (3)水熱処理による飲料残渣の炭素体への変換:カーボンニュートラルの観点から,コーヒーなどの飲料残渣を前もって水熱処理を行うことにより,高炭素収率で水熱チャーを得ることできた。これを引き続き炭素化することで,カーボン値の高い多孔質ハードカーボンに転換された。特に,コーヒーや緑茶などの飲料残渣から調製した多孔質ハードカーボンは優れたエテン吸着特性を示し,市販のエテン吸着剤に匹敵する性能を有することが分かった。また,一部の飲料残渣では,水熱処理時にパルミチン酸などの高級脂肪酸が高濃度で濃縮されることが示された。これらの成果について,関連学会や国際誌等で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一部予定していた電池性能評価ができなかったものの,それ以外の合成や物性評価については順調に進めることができた。特に昨年度以来,検討を進めてきたイオン交換樹脂のヨウ素化においては,イオン交換基が陽イオンか陰イオンかによって,細孔特性が全く異なる球状ハードカーボンが得られたことは興味深い結果である。この結果は,大量に埋立廃棄されている廃イオン交換樹脂の新たな材料用途の開発に期待できる。また,原料有機物に飲料残渣を用いた場合,水熱処理が誘導される炭素体の多孔質化に有効な手段であることが明らかとなった点は大きな成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
種々のセルロース誘導体やその他の高分子について,水熱処理やヨウ素処理といった原料の改質処理を行ったところ,異種金属イオンが比較的強い相互作用で化学吸着したものを改質原料とすると,その金属種の酸化力に応じて,バルク/細孔の両モルフォロジー特性が大きく変化することが明らかになってきた。このことから,付加的な化学賦活を用いることなく,炭素体のナノ空間と異種活物質担持を同時に精密制御しうるハードカーボンの調製といった構想に繋がり,R4年度より新たな基盤研究Cに採択された。本課題で得られた知見・技術を次の課題にフィードバックし,より実用的な研究成果に発展させたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)国際学会の事前登録とその諸経費を見込んでいたが,開催がキャンセルとなったことから繰越分が生じた。 (使用計画)次年度の本人および研究協力者2名(所属学生)の国内外の学会参加費ならびに旅費に追加計上する予定である。学会行動が制限された場合は,研究遂行に不可欠な高純度ガスや試薬の購入費に充てる予定である。
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