カーボンナノチューブは、直径がナノメートルサイズと小さく、先端が先鋭で、アスペクト比が大きいことに加え、機械的強度や、電流密度耐性、熱伝導性、化学的表面安定性、高温耐熱性に優れていることから、低電圧で電子を電界放出する高輝度電子源(電子エミッタ)の材料として注目されている。最近、電界放出中のカーボンナノチューブにおいて、電子を放出するだけでなく発光していることを示す知見が得られた。本研究では、この電界放出中に発現するカーボンナノチューブからの発光について基礎特性および発現機構を明らかにすることを目指した。先ず、透過電子顕微鏡内で電界放出中のカーボンナノチューブ電子エミッタの構造を動的に観察しながら、その場で印加電圧や、放出電流、発光スペクトルの変化を同時に測定するためのその場観察・計測技術を確立した。次に、先端が一本のカーボンナノチューブからなる電子エミッタを作製し、透過電子顕微鏡内で電界放出実験を実施した。その結果、黒体放射とは異なる、ブロードなピークにシャープなピーク(ピーク半値幅:数十meV)が重畳する発光スペクトルが観察された。観察された発光は、カーボンナノチューブの先端が開端した構造であるときに発現し、その強度は放出電流の増加とともに増大するが、ピーク位置は変化しないことが明らかになった。今後、カーボンナノチューブの電界放出中に発現する発光の機構解明に向けて研究を推進する。
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