研究課題/領域番号 |
19K05005
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
上田 太郎 長崎大学, 工学研究科, 助教 (10524928)
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研究分担者 |
清水 康博 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20150518)
兵頭 健生 長崎大学, 工学研究科, 准教授 (70295096)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 固体電解質 / 安定化ジルコニア / ガスセンサ / 酸化セリウム / メチルメルカプタン / トルエン |
研究実績の概要 |
安定化ジルコニア(YSZ)基板の両面に酸化セリウム(CeO2)を添加したAu検知極とPt対極を取り付けた2隔室型の固体電解質型センサを作製し,そのトルエンに対するガス応答特性を評価した。 検知極は,塩化金,硝酸セリウムとポリビニルアルコールを溶解した前駆体溶液をYSZ基板に滴下し,3000 rpmでスピンコート後,300℃で熱処理した。この操作を5-15回ほど繰り返すことで膜厚を制御したAu(nCeO2)sx検知極(n: Auに対するCeO2添加量(wt%),x: 積層回数)を作製した。SEM観察結果より,スピンコーティング回数を変化させることで,30~100 nmの間で膜厚を制御できることがわかった。 作製したセンサは,いずれも,ガスを空気からトルエンに切り替えると起電力が負の方向に大きくシフトした。CeO2添加量が4 wt%(n: 4)の場合は,トルエン応答は検知極膜厚の減少とともに増加した。本センサのトルエン応答は三相界面におけるトルエンの電気化学的酸化反応と酸素の電気化学的還元反応が同時に進行して生じる混成電位により決定されると考えられる。ただし,一定量のトルエンは検知極中を拡散する際にCeO2表面で酸化されて,三相界面に到達するトルエン濃度が減少する。そのため,膜厚の増加とともに応答値が減少したと考えられる。ところが,CeO2添加量が最大の場合(n: 16)は,膜厚の増加とともに応答値が増加し,Au(16CeO2)s15を用いた場合に最大のトルエン応答(ca: 199 mV,センサ作動温度:500℃)を示す結果を得た。これは,CeO2の酸素イオン導電性機能により,この添加量を増やしたことで検知極が電子と酸素イオンをともに伝導できるようになったことが寄与したと考察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Au検知極にCeO2の添加量を増やすことで,トルエンに対する応答特性を大きく向上させることができた。CeO2は酸素イオン導電性を示すため,AuにCeO2を添加することで電子と酸素イオンの混合導電体として機能できる。その結果,トルエンの電気化学的酸化反応が検知極とガスの界面でも進行し,センサ応答値に影響を与えた可能性が高いと考えている。これまでに,電極反応界面の量がセンサ応答を向上させる研究はいくつか報告されているが,反応界面の量と応答値の相関関係を体系的に研究した報告はほとんどない。今回,CeO2の添加量を増やしたことと検知極膜厚の増加がトルエン応答に与える影響を評価したことで,反応界面の量がセンサ応答の特性向上に影響を与える範囲が存在することを示すことができた。また,ある程度定量的な議論をすることも可能な検知極の作製に成功した。今後は,特性の改善と応答メカニズムの解明ができるように研究を推進したい。したがって,概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
Au系検知極にCeO2を添加することやその検知極の厚膜化が固体電解質(YSZ)センサのトルエン応答に与える影響を解明する。 検知極は引き続き,塩化金と硝酸セリウムを含むコーティング溶液を用い,スピンコーディング法を用いて薄膜検知極を成膜する。検知極の膜厚やCeO2添加量を変化させた素子を作製し,センサ応答特性をさらに向上する。また,呼気などに共存するトルエンを含む揮発有機性化合物(VOC)に対する応答特性を評価し,高感度・選択的な応答が得られる条件を明らかにする。 センサの応答メカニズムを検討するために,作製したセンサ素子の複素インピーダンス測定を行う。三相界面長とセンサ応答値の関連性を明らかにする。解析結果より,検知極構造の最適な設計指針を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 導入したガス流通装置を組み立てる際に,必要な部品の一部を研究室の備品を使用したため,予算に余裕が生じ次年度使用が生じた。 使用計画 導入したガス流通装置の欠点が明らかになったので,改良に必要な部品を購入する費用とする。また,検知極の合成に必要な試薬やガラス器具類,センサ素子作製に必要な貴金属や基材,センサ応答特性評価に必要なガス購入を行う。さらに,研究動向についての調査研究,研究成果の外部への積極的な発信のための旅費としての使用を計画している。
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