研究課題/領域番号 |
19K05013
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
上川 直文 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (60282448)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | シングルナノ粒子 / 混合原子価 / 酸化チタン / 酸化セリウム / 糖アルコール |
研究実績の概要 |
酸化物ナノ粒子の水溶液中合成において選択的物質透過によりナノ粒子生成を制御する透析を高度化する一つの手法として、本研究で提案する膜透過を電場印加で制御するシステムを構築するために必要な基礎データー収集を中心に検討した。 初めに合成検討の対象とする酸化物系の検討を行った。本研究の最終的な目的である光機能性を制御するのに適した系として、ドーピングにより電子状態を制御した酸化Tiおよび酸化Ceを主体に酸化Znなどについてその粒径および機能制御を行った。 Nbをドープしたアナターゼ型酸化Tiについては、TiとNbの塩化物溶液を透析する際に添加する塩基濃度でゲルを生成物とする場合と安定なゾルを生成物とする場合の制御を実現した。さらに、Nbドープ量を全陽イオンに対するモル分率で0.2までの広範囲で制御を可能とし、長波長の可視光での電子励起と光還元特性を付与出来た。酸化Ce系では、Ce水酸化物を糖アルコール溶液で解膠の後透析する方法とCe塩水溶液に糖アルコールと塩基を同時に添加し透析する方法で、粒径制御を100 nmの領域からシングルナノ領域の制御で実現した。また、酸化CeのCeイオンの3価と4価の混合原子価が粒径と糖アルコールの配位にで制御可能であることを見出した。さらに、Alドープ酸化亜鉛ナノ粒子についてAl,Zn硝酸塩水溶液へグルコースと塩基を添加し透析して得られるZn-Al系層状複水酸化物粒子分散ゾルを75℃で加熱静置することでAlドープZnOナノ粒子が得られ、それら粒子が集積した(002)配向膜のゾルの塗布乾燥のみで作製する手法を明らかにした。 以上の様に、2019年度は金属塩溶液からの選択的物質透過を透析により実現することで酸化物ナノ粒子の粒径制御およびそれに伴った格子欠陥状態および陽イオンの原子化状態制御の手法を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エネルギー変換機能を有する酸化物ナノ粒子の物性制御目指した溶液合成法と透析プロセスの改良について以下記載する。 ①アナターゼ型酸化チタンについて、可視光による電子励起を目的に不純物準位をバンドの禁制帯内に形成させるためNbイオンを広い組成範囲で置換固溶した酸化チタンナノ粒子の合成を目指した。塩化Tiと塩化Nbのエチレングリコール溶液を水溶媒中で細孔径2nmの透析膜で透析を行い合成した。金属イオンの水和イオンの脱水縮合反応をアンモニア添加で制御し、アンモニア濃度が低い場合はゲル、高い場合はゾルを得た。これらのゾル及びゲルは、95℃以上の加熱静置処理でNbドープアナターゼ型酸化チタンとなた。また、粒子径は50nm以下であり、光照射を行うと、Nb/(Ti+Nb)が0.1以上で、波長700 nm近傍の可視光照射時と波長400nm以下の紫外光照射時にTiイオンの光還元が生じ光照射による励起電子の局在化によるフォトクロミック現象が発現することが明らかとなった。これは、本合成法により透析後に得られたゾル中粒子の粒径が50 nm以下となり酸素欠陥含有割合の増大なども寄与していることがラマンスペクトル測定などからも明らかとなった。 ②硝酸セリウム(III)水溶液に糖アルコールであるソルビトールを加え塩基としてアンモニアを加えた後直ちに室温で水溶媒中で透析することで酸化セリウムナノ粒子が分散したゾルが得られた。さらに、Ceイオンへ配位し水和イオンの加水分解反応と3価から4価への酸化を制御し水中での生成粒子分散安定性を向上させるソルビトールが共存する条件下での透析手法を新たに開発した。これによりCeの3価と4価混合原子化状態を広い組成比で制御することが可能となった。 今年度の検討では、電場印加により、精密な粒径および形態制御を行うのに適した物性を有する酸化物ナノ粒子系を明らかにすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度においては、本研究で検討を進めるべき酸化物ナノ粒子系とその合成手法の概要について、最終目標である光エネルギー変換機能を有する太陽電池系を構築するために適した物質系と合成方法の探索を中心に行った。特に本研究課題で、選択的物質透過による溶液中粒子生成反応制御の中心的役割を担う透析の高度化について、2019年度は、迅速に検討が可能な反応溶液中の共存物質の工夫を中心に行い電場など外場印加による制御は準備的検討を行った。2020年については、外場印加での透析過程における金属イオンのアクア錯体の重縮合反応制御に基づく粒子成長過程の精密制御について具体的検討を進める。特に研究申請において記載した、透析膜の内部と外部の間への電場印加でのイオン透過制御によるナノレベルでの粒径制御ついてセルの作製を進め検討を促進する。具体的には、隔膜型の透析セルを用いその両側へ透析膜に近接するように白金メッシュ電極を設置して直流電圧を印加した状態での透析を実施する。このセルについて電場強度と透析によるイオン拡散速度の関係さらに粒子成長速度への影響など多面的に検討し、電場印加制御手法について集中的に検討する。 さらに、2021年度の検討にもつながる事項であるが、外場として電場だけでなく光照射による影響についても高輝度のLED光源を導入し検討を進める。光照射は、生成粒子が光励起される性質を有する場合、電荷分離による粒子表面ゼータ電位の制御が可能になり、電場印加による透析過程制御に対して粒子の透析膜透過特性の制御をより緻密化高度化出来ると期待される。 以上より、2020年以降の検討では、透析過程における電場印加と光照射の複合的外場制御を通して酸化物ナノ粒子の高度な粒径および粒子形態制御を通した物性制御手法の確立を目指した検討を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度については、本研究助成による予算により電場印加効果を測定するための電気化学測定用ポテンショスタットなどを備品として購入したが、当初予定していた予算よりも安価に購入できた点が当初の予算計画よりも低額の執行となった大きな理由である。また、研究の実施において電場印加効果の検討より優先して研究対象として最適な酸化物系の探索などを行ったため、電場印加セル作製に関わる費用が減少したことももう一つの理由である。2019年度の申請額と執行額の差に関しては2020年度の電場印加セルの完成に関わる備品購入(隔膜型透析セルの改良)に使用する予定となっている。
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