研究実績の概要 |
2022年度は最終年度ととして総括的な実験研究に力を入れた。透析過程を単一の溶媒置換過程から外場として、溶媒中の共存イオンの影響を取り入れ、透析膜の物質移動を多段階で制御する観点と、高度な透析過程制御で得た酸化物ナノ粒子の新規機能開発について検討した。物質系は、チタン酸化物とセリウム酸化物を中心に検討した。 チタン酸化物系として、塩化チタン(III)のエチレングリコール溶液の多段階透析についてさらに検討を進めた。第1段階の透析を行う透析溶媒をクエン酸塩水溶液から多様なヒドロキシカルボン酸水溶液に変えることで、粒径・形態だけでなく結晶構造について制御可能である事を明らかにした。特に、クエン酸イオンと比べて配位定数の小さい乳酸や酢酸イオンを用いる事でアナターゼ型酸化チタンゾルが得られた。このゾルは、ガラス基板上での乾燥のみで均一性の高い薄膜を形成し高い光触媒活性を示した。 本多段階透析法は、カルシウムイオンの代表的なリン酸塩であるヒドロキシアパタイトナノ粒子の分散性制御と粒径形態制御にも有効であることを示した。硝酸カルシウム、リン酸、アンモニア水、ソルビトールの混合水溶液を75℃, 24 h静置後クエン酸アンモニウム水溶液で2段階透析することで、100nm以下のヒドロキシアパタイトナノ粒子が安定に分散したゾルが得られた。さらに、その乾燥による配向膜作成を実現した。 また、硝酸セリウム水溶液に分散及び形態制御剤としてソルビトールとアンモニア水を添加し透析することで層状構造を有する酸化セリウムナノ粒子分散ゾルの合成に成功した。この層状酸化セリウムは、紫外光(365 nm)照射により光溶解し炭酸塩へ変化する光変換反応を生じる特異な物性を有する事を明らかにした。 これらの研究成果は、ナノサイズでの粒径と結晶構造制御を透析によるナノ粒子合成の高度化によりで実現できたと言える。
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