紫外LEDやLDなどで発展の著しい紫外・真空紫外領域で、物質の基礎物性定数の一つである複素屈折率スペクトルの定量測定は、物性研究の基礎情報として工学的だけでなく基礎的な研究においても必要と考えている。この観点から我々は世界的にも殆どない可視‐真空紫外分光エリプソメーターをシンクロトロン放射光(SR)に特化した可視‐真空紫外分光エリプソメトリ装置(VIS-VUV SE)として構築してきた。 当計画では、SRの特徴である可視‐真空紫外という広い波長領域を試料周りの条件を変えずに測定できる点が、反射スペクトルから Kramers-Kronig 変換して複素屈折率スペクトルを求める際の条件と合致していることを利用して、VIS-VUV SEに反射率計を組み込むことで、エリプソメーターと Kramers-Kronig 変換双方の長所を生かした新たな可視‐真空紫外複合型複素屈折率スペクトル測定装置(VIS-VUV CRISE)として唯一性を示すこと、次にワイドバンドギャップ物質の広い波長領域での複素屈折率の定量データの提供を目指すこと目的としている。 当初の計画では、初年度(令和元年度)に最初の目的であるVIS-VUV SEに反射率計を組み込み新たなVIS-VUV CRISEを設計・試作することであったが、申請執筆後に設計を見直し、短期での実現可能性を優先した方法で設計・製作を開始、真空排気部以外は手持ちの資金だけで令和元年度に試作・組み込みを完了している。 一方、令和元年6月27日に、本装置の光源となるSR(UVSOR BL7B)の前置鏡真空槽で深刻な冷却水漏れ事故が発生し、令和元年度全期間の利用が停止、令和2年度に部分的に復旧したものの、光源故障への対応法の確立が優先し、予定した評価実験が進まない状況が続き、上記以上の実績を示せなくなっている。
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