研究課題/領域番号 |
19K05015
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
中嶋 聖介 静岡大学, 工学部, 准教授 (40462709)
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研究分担者 |
村井 俊介 京都大学, 工学研究科, 助教 (20378805)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ファラデー効果 / 局在表面プラズモン共鳴 / プラズモニックアレイ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、局在表面プラズモン共鳴を示す金属ナノ構造と磁性体材料の複合化により、ファラデー回転角のプラズモン増強現象を詳細に調査することである。金属ナノ粒子の周期構造アレイをもつプラズモニック基板に対して、パルスレーザー堆積法を用いて酸化物磁性薄膜を成長させ、プラズモニック協同モードと磁気光学効果のカップリングが存在し、増強効果が得られることを確認する。まず最初に、強磁性薄膜として、多結晶Fe薄膜を用いた複合薄膜において、ファラデー効果の試料角度依存性を調べた。Fe薄膜の厚さはおよそ10nmであり、わずかに透過光を確認することができ、プラズモニックアレイの回折現象が確認された。この回折効果は、アレイ基板上に作製した薄膜試料の角度を変化させた場合の光吸収スペクトルにおいて、局在表面プラズモン共鳴吸収に透過ディップが現れ、角度依存性を示すことで確認される。ファラデー効果測定においても、試料角度に対する回転角の増減を調べたところ、光吸収スペクトルのディップ波長に近い領域において回転角の増強が認められた。次に、より透過率が高く性能指数が優れた強磁性薄膜として、亜鉛フェライト(ZnFe2O4)準安定相薄膜を選択することとした。基板温度や堆積時間など条件を変化させ、十分な透光性をもつ最適なZnFe2O4準安定相薄膜の作製を検討し、最適に設計されたプラズモニックアレイ基板上への成膜を行ったところ、Fe薄膜同様に吸収スペクトルにおける透過ディップのシフトを確認した。さらに、ファラデー効果の試料角度依存性の測定を行ったところ、試料角度11度において強磁性的な負の回転角の増強が生じることを示した。また、Fe薄膜に比べて、ZnFe2O4準安定相薄膜は高い増強率を有していることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回、パルスレーザー堆積法を用いてランダムスピネル型のZnFe2O4薄膜をガラス基板上に作製し、酸素分圧、基板温度等条件を検討することで最適な強磁性薄膜を得ることができた。基板温度の上昇に伴い結晶性が向上し、作製した薄膜の磁化やファラデー回転角は増加した。その最適条件の下、Alナノシリンダー(直径200 nm,高さ150 nm)を種々の周期長において3角格子状に周期配列したAlナノアレイ基板に対して、ZnFe2O4薄膜の作製を行った。走査電子顕微鏡観察を行ったところ、Alナノアレイが三角格子状に周期配列している様子を確認し、Alナノアレイ上にZnFe2O4薄膜が隙間を埋めるように堆積している様子を確認することができた。このプラズモニックアレイ上のZnFe2O4薄膜試料では、光吸収測定において、透過ディップが観測された。試料に対して面外方向への入射を0°として、入射角度を大きくする、すなわち試料の角度を変化させると、このディップが現れる波長が長波長側へとシフトすることを確認した。ファラデー効果測定の光源である488 nmのレーザーに対して、適した条件となるようZnFe2O4薄膜の膜厚を制御したところ、およそ試料角度20°付近でギャップが生じる試料の作製をおこなった。この試料においてファラデー効果の試料角度依存性を測定すると、12°においてファラデー回転角が増大することが明らかになった。アレイ上のFe膜、Fe3O4ナノ微粒子分散キセロゲル薄膜と比較して、今回作製したZnFe2O4薄膜は、最も大きなファラデー回転角の増強率を示すことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今回、ZnFe2O4準安定相薄膜を用いることで、これまでで最も大きな増強率を達成することができたのは大きな成果である。プラズモニックアレイの直径、周期長などの条件を変えることで、増強が生じる波長、角度を自由に選択することができると期待できる。そこで、次年度においては、様々な波長のレーザーを用いて、各種条件のアレイに対して、ファラデー効果の増強率がどの程度変化するのかを詳細に調査したい。また、本研究の最終目的である導波路型ファラデーデバイスの創製についても引き続き検討を重ねることとする。今回得られたアレイ上に作製したZnFe2O4準安定相薄膜のさらに上方に、スピンコート法などにより、透明キセロゲル厚膜を作製することを試みる予定である。そのゲル厚膜には回折条件が満たされる角度方向にフェムト秒レーザープロセスを利用して光導波路構造を形成させておく。これにより、ファラデー効果が増強される角度条件においては、光導波路から高効率に透過光が取り出されることになると期待できる。このデバイス構造は現在検討中であるが、センサーデバイスに応用できると考えられる。さらに基板上でなく、薄膜上にアレイを形成させ、アレイに接触した溶液等の屈折率をセンシングする機能を有するデバイスも考えられ、そうしたデバイス試作についても挑戦する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界各地において新型コロナウイルス感染症流行がおこり、国際会議に参加することができなかったためと考えられる。次年度においても流行が収まる見通しはもてないことから、実験装置などの充実を行う予定である。さらに高温電気炉を導入することで、熱処理温度の検討などが速やかに行うことができ、実験の効率が上がると期待される。
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