研究課題/領域番号 |
19K05017
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
北村 尚斗 東京理科大学, 理工学部先端化学科, 准教授 (10453812)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 正極材料 / 原子配列 / 中性子全散乱 / X線全散乱 / 不規則岩塩 |
研究実績の概要 |
不規則岩塩型構造を有するリチウム過剰遷移金属酸化物は、次世代リチウムイオン電池の正極材料の候補として注目されているが、その原子配列には不明な点が残されている。本研究では、全散乱データを用いた構造解析(逆モンテカルロモデリング)により原子配列を解明し、得られた知見に基づき、新規正極材料の創製を目指す。目的を達成するため、以下の実験を行った。 2020年度は、Li1+x(M, Mn)1-xO2 (M = Nb, Ti)を中心に原子配列を詳細に検討した。試料は固相法により合成し、焼成はアルゴン雰囲気下で行った。X線回折測定により、各試料は不規則岩塩型構造の単一相であることを確認した。また、組成分析により金属成分の組成比を決定し、X線吸収微細構造分析により価数を評価した。これらの試料について、充放電サイクル試験を行った結果、いずれの試料も初回放電時において約250 mAh/gの高放電容量を示した。さらに、一部の試料については合成条件を変更し、焼成時の冷却条件が正極特性に影響を及ぼすことが示唆された。 不規則岩塩型構造に潜む陽イオンの局所配列を明らかにするため、これらの試料について全散乱測定を行い、構造因子S(Q)と簡約2体分布関数G(r)を導出した。これらのデータとBragg反射を同時に用いて構造解析を行った結果、Li1+x(Nb, Mn)1-xO2についてはLiの周辺にNbが存在しやすいことが明らかになった。一方、Li1+x(Ti, Mn)1-xO2についてはLiの周辺にTiが存在しやすいことがわかった。これらのことは、Liの周りに高価数のイオンが局在することを示唆している。また、解析精度を向上させるため、EXAFSデータの併用にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度から2020年度にかけて、Li3NbO4を母体とするLi1.3(Nb, M)0.7O2(M=Fe, Ni)の詳細な陽イオン分布の解明に成功し、その成果を論文として公開した(Back coverに選出)。また、遷移金属として新たにTi, Mnを含む試料の原子配列解析にも着手し、詳細な陽イオン分布を解明した。 これらの研究により、組成と原子配列の関係が明らかになりつつあり、得られた知見をもとに、現在、より複雑な組成を有する試料の創製に着手している。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画のとおり、本研究の中核となる原子配列解析を引き続き実施し、より複雑な組成を有する試料も対象とした系統的な調査を行う。また、得られた原子配列から構造情報を抽出し、組成と構造、正極特性の関係から、新規材料の探索を行う。 具体的には、前年度までに解析してきた試料の固溶体に新たに注目し、組成と正極特性、原子配列の関係を検討する。原子配列の検討は、これまで主に中性子・放射光X線全散乱データを用いて実施してきたが、2020年度においてEXAFSデータの併用にも着手し、一部の試料について解析に成功したため、今後は全散乱データとEXAFSの併用を系統的に進めていく。また、得られた原子配列から構造情報を抽出するため、新たな数学的手法にも着手する。さらに、得られた原子配列をもとに第一原理計算を行い、電子構造の情報も含めた体系化を行う。 以上の解析によって得られた知見に基づき、不規則岩塩型構造を有する新規正極材料の設計指針の確立と、その設計指針に基づく材料合成を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
全散乱測定の実施時期が次年度になったため、測定用の試料合成の一部を測定の直前(次年度)に実施する。
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