研究課題/領域番号 |
19K05018
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
松本 里香 東京工芸大学, 工学部, 教授 (30338248)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インターカレーション / ナトリウム / 黒鉛 / 多層グラフェン |
研究実績の概要 |
黒鉛にはアルカリ金属が容易にインターカレーションし、黒鉛層間化合物(GIC)を形成するが、ナトリウムだけは層間化合物(Na-GIC)を形成しにくい。NaGICの飽和構造は複数報告されており、Na-GICの物性も明らかにされていない。よって、本研究では、Na-GICの形成挙動や飽和構造を再検討し、さらに、僅かなインターカレーションを検出するために、多層グラフェンを利用する。
今年度は、複数の多層グラフェンを用いてNaのインターカレーションを試みた。生成物は大気下で分解することが予想されるので、大気非暴露でインターカレーションの有無を判断する分析手法の検討から行った。使用した多層グラフェンは市販のCVD法により生成された2層、数層、多層のグラフェンである。また、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)を剥離した多層グラフェンも用いた。Naインターカレーションは気相法で行い、生成物の解析はラマン分光法を用いた。大気非暴露でのラマン分光測定は、他のインターカレーション化合物で実績のある、セル付きのガラス管を反応管を用いることで実現した。 その結果、市販の多層グラフェンにおいてNaの高濃度でのインターカレーションが確認できた。同封した黒鉛シートでは、低濃度(ステージ8程度)のインターカレーションであったが、多層グラフェンでは、ステージ2~ステージ4程度の高濃度のインターカレーションに対応するラマンスペクトルが観測された。また、層数が減少するとインタ―カレーションが難しくなる傾向がうかがえた。また、HOPGを剥離した多層グラフェンでは高濃度インターカレーションの観測が難しかったため、多層グラフェンの結晶性が影響していることが分かった。 純粋な気相法によるNaの高濃度でのインターカレーションはこれまでに報告がないため、本実験の成果はNaインターカレーションの初の観測となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黒鉛シートを用いた場合、これまでの報告通りステージ6~8程度の低濃度Naインターカレーションが観測された。しかし、ステージ数の確定や制御方法の確立には至っていない。また、少量でもNa2Oなど含酸素物質を含むとNa-GICとは異なるGICを形成することも明らかにした。Naの多層グラフェンへの高濃度インターカレーションを確認したが、多層グラフェンの層数の精密な関係性を明らかにするところまではできていない。しかし、予定以上の成果であり、初の高濃度(低ステージ)ナトリウム黒鉛層間化合物が形成できたと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
多層グラフェンの層数が減少するとナトリウムのインターカレーションが難しくなる傾向が認められた。よって、今後は層数とインターカレーション挙動の検討を行いたい。また、HOPGを剥離した高結晶性の多層グラフェンでもインターカレーションが難しくなる傾向があったので、結晶性とインターカレーション挙動の関係も明らかにしたい。その後、この結果をもとに、バルク体の黒鉛へのナトリウムインターカレーションを実現を目指す。黒鉛の結晶性を制御することで、可能であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に新しい成果(ナトリウムのインターカレーションの確認)が出てきたので、確認実験を引き続き実施する必要が生じた。また、成果発表の予算も必要となった。
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