研究課題/領域番号 |
19K05020
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
三好 正悟 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主任研究員 (30398094)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リチウムイオン伝導 / 固体電解質 / 粒界抵抗 / NASICON型酸化物 / ペロブスカイト型酸化物 / ガーネット型酸化物 |
研究実績の概要 |
全固体電池の電解質材料として期待されるリチウムイオン伝導性酸化物においては,結晶粒子内の伝導性は良好であるが,粒子間を横断する際の抵抗が大きい.この粒界抵抗は,産業プロセスで求められる低温での焼成で得られる材料において特に大きく,高温焼成により低減される傾向を示す.本研究では,ペロブスカイト型やガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物,およびNASICON型酸化物を対象とし,低温で形成した粒子間の接合が焼成によりイオン伝導性を獲得する本質的な要因を,構造・化学・物理的な観点から多角的に検討して明らかにするとともに,その低減手法を提案することを目的としている. 本年度は既に市販の開始された小型電池への応用実績があるNASICON型固体電解質を対象として,基本的な焼結挙動とイオン伝導特性を系統的に評価して粒界抵抗に関する検討を行った.その結果,この系におけるイオン伝導度は他の多くの固体電解質と同様に粒界抵抗が試料の全抵抗を支配するが,相対密度が70%程度の多孔体であっても粒界抵抗と粒内抵抗の比は室温付近において10倍程度であり,例えばTi系ペロブスカイト型酸化物においては緻密体であっても同比が50倍にもなることと比較すると,粒界抵抗が比較的小さい物質系であることが明らかになった.また,一定以上の温度で焼成すれば成形段階から殆ど緻密化が進行していなくともある程度のイオン伝導度が発現することを見出した.このことは,昨年度に見出した低温超高圧成形したペロブスカイト型電解質が極めて低いイオン伝導度を示す現象と対照的であり,粒界におけるイオン伝導特性がこれらの物質系において大きく異なることを示唆している.両者の粒界特性を比較することにより粒界におけるイオン伝導性獲得過程の本質を明らかにすることが期待され,このための分析・評価をさらに進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,ペロブスカイト型酸化物については,比較低温において超高圧焼成して得られた緻密体が極めて高い粒界抵抗を示すことが明らかとなり,超高圧下での破砕により生じる新生面の接触界面がイオン伝導を阻害することが示唆されている.この巨大な粒界抵抗は,研究計画時に対象とした,低温における通常焼結により得られる試料が低密度であることに由来する粒界抵抗とは異なる性質の現象であると考えられる.極めて清浄な界面の一つである劈開による新生面がイオン伝導を妨げているとすれば,これは粒子界面を横断するイオン輸送能を備えるために必要な本質的要件を明らかにするための極めて重要な知見であると考えられる. また,これとは対照的にNASICON型固体電解質については,室温における成型時から焼結・緻密化が殆ど進行していない(具体的には相対密度の上昇が1%未満の)試料であっても,この系で達成可能な最高のイオン伝導度より高々1桁小さい程度の比較的高いイオン伝導度が得られることを見出している.この実験事実は,難焼結性材料は低密度であるために粒子間接触面積が不足する結果として粒界抵抗が大きい,という一般的な先入観を根底から覆すものである. 前者のペロブスカイト型酸化物は粒内抵抗に比した粒界抵抗が比較的大きく,後者のNASICON型固体電解質は粒界抵抗が比較的小さいが,この相違は上記の低温で形成される粒子間接触・接合界面におけるイオン伝導特性の振る舞いが対照的であることと密接に関係することは想像に難くない.これらの系における粒界の性質をさらに比較することにより,粒子間界面におけるイオン伝導性獲得の本質的要因に迫ることが期待される. 以上の研究経過から,粒界抵抗について本質的な起源を明らかにするとともに低減を図るという本研究の大きな目的に照らすと,進捗状況は概ね順調であると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに明らかになった,ペロブスカイト型酸化物において低温超高圧焼成により形成される界面の巨大粒界抵抗と,NASICON型固体電解質において低温焼成により形成される界面の比較的小さい粒界抵抗に着目し,これらの粒界および近傍における構造・化学・物理的特徴の分析・解析を進める.これらの粒界の特徴を整理して,それぞれ対照的な傾向を示す粒界抵抗と関連付けることにより,粒界抵抗の起源解明と低減手法の検討を行っていく. これまでにペロブスカイト型酸化物の粒界および近傍に対してTEM/STEMによる観察・分析を行っているが,粒界における析出物・異相や,粒界近傍における組成・構造の異常は確認できていない.このことは,作製した試料における粒界抵抗が不純物などに起因するものではなく,当初の想定と違わず粒界そのものに由来する内因的な性質であることを示すものであるが,プロセス条件により大きく異なる粒界抵抗との相関を議論するためには粒界における異常を検出する必要がある.そこで今後は,STEM/EDSないしEELSで分析することが困難なリチウムの分布を評価するために,三次元アトムプローブによる解析を取り入れる.この分析手法は代表者の所属機関NIMSが先駆的に実績を挙げているものであり,軽元素であるリチウムについてもナノオーダーの空間分解能で高感度に存在分布を評価することが出来る.コンベンショナルなTEM/STEMによる観察・分析も引き続き条件を最適化しながら進めるとともに,三次元アトムプローブによる元素分布の評価と併せて粒界の性質と粒界抵抗との相関を明らかにし,粒界におけるイオン輸送抵抗の実体と伝導性獲得機構の解明に挑む.さらに,これらの知見から導かれる粒界抵抗の低減に必要な本質的要素に対して,有効な制御を行うためのプロセス・材料最適化の方策を提案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新たにNASICON型固体電解質の焼結挙動とイオン伝導特性の評価を進めたが,限られた組成に対して集中的・系統的に検討を進めたため材料費等のランニングコストが低く抑えられた.また,新型コロナの影響により成果報告等のための旅費支出も発生しなかった.これらの理由により次年度使用額が発生している.次年度は,これまでに明らかになった特徴的な粒界抵抗を示す試料に対して高度解析機器を用いる分析を集中的に行うため,次年度使用額は主としてこのための装置利用料に充てる計画である.
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