全固体電池の電解質材料として期待されるリチウムイオン伝導性酸化物においては、結晶粒子内の伝導性は良好であるが、粒子間を横断する際の抵抗が大きい。この粒界抵抗は、産業プロセスで求められる低温での焼成で得られる材料において特に大きく、高温焼成により低減される傾向を示す。本研究では、ペロブスカイト型やガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物、およびNASICON型酸化物を対象とし、低温で形成した粒子間の接合が焼成によりイオン伝導性を獲得する本質的な要因を、構造・化学・物理的な観点から多角的に検討して明らかにするとともに、その低減手法を提案することを目的としている。 低温形成したリチウムイオン伝導性酸化物の粒子間接合がイオン伝導性を獲得する過程を追跡するため、低温・超高圧において緻密化した試料のポストアニールに伴うイオン伝導性の変化を調べた。超高圧により得られた緻密体は極めて大きい粒界抵抗を示し、ポストアニールによって粒界抵抗が低下することが明らかとなった。超高圧による緻密化には粒子の劈開・破砕を伴うと考えられるため、観測された巨大な粒界抵抗は破砕による新生面の接合界面に由来すると考えられ、粒子界面を横断するイオン輸送能を備えるために必要な本質的要件を明らかにするための極めて重要な知見が得られた。 ペロブスカイト型固体電解質とNASICON型固体電解質の粒界抵抗を比較したところ、ペロブスカイト型固体電解質ではバルク抵抗の50倍にもおよぶ粒界抵抗が生じるのに対して、NASICON型固体電解質の粒界抵抗はバルク抵抗の10倍程度であった。またNASICON型固体電解質は、一定以上の温度で焼成すれば成形段階から殆ど緻密化が進行していなくともある程度のイオン伝導度が発現することを見出し、粒界抵抗の本質的要因に迫るための重要な知見が得られた。
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