研究課題
本研究は、新しい分光技術により得られる超高強度X線(ピンクビームと呼ばれる)を非晶質PDF解析へ適用し、秒オーダーで十分な統計精度の時分割PDFデータ取得を可能とする技術確立と、その技術を全固体電池用硫化物ガラスの液相合成プロセス観察へ適用し、その機構を解明することを目的としている。今年度はまず「ピンクビームの非晶質PDF解析への適用」を遂行し、プリズムとスリットの組合せにより、安定相の石英ガラスで従来と同等のPDF解析を数ミリ秒で得られることを確認した。しかしながら、硫化物ガラスは準安定相であるため、ピンクビームを照射すると照射部分で結晶化が起こり、ピンクビームが合成過程の観察へ適用できないことが分かった。そこで、SPring-8の従来の高強度X線を用いた時分割PDF解析によって、硫化物ガラスの液相合成過程の直接観察を試みた。異なる溶媒における合成反応を確認し、溶液中の錯体構造の安定性と固体電解質生成速度の相関性を明らかにした。当該内容についてまとめ、Physica Status Solidi B: Basic Solid State Physics誌へ投稿している。
2: おおむね順調に進展している
ピンクビームを用いた非晶質PDF解析は、硫化物ガラス材料の合成過程観察に適用できなかったものの、安定相のガラスへの適用は可能であり、Ba添加のガラス材料にて、異常散乱(AXS)効果を用いたAXS-PDF解析のデータ取得に成功した。本データにより構造モデリングの精度向上が見込めるため、順調に進んでいる。
上述のピンクビームと異常散乱効果を組み合わせた非晶質構造解析技術確立に関する内容について、1つの成果として発表する。一方、全固体電池用硫化物ガラスの液相合成プロセスの理解については、次に乾燥過程観察を行い、乾燥工程の違い等の評価を予定している。両者を並行して進めていく。
次年度使用額は少額であり、物品費や旅費等へ計画通り使用する。
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