研究実績の概要 |
本研究は、新しい分光技術により得られる超高強度X線(ピンクビームと呼ばれる)を非晶質材料のPDF解析へ適用し、秒オーダーで十分な統計精度の時分割PDFデータ取得を可能とする技術確立と、その技術を全固体電池用硫化物固体電解質の液相合成プロセス観察へ適用し、その機構を解明することを目的としている。昨年度は「ピンクビームの非晶質PDF解析への適用」を遂行し、プリズムとスリットの組合せにより、安定相の石英ガラスで従来と同等のPDF解析を数ミリ秒で得られることを報告した。しかしながら、硫化物固体電解質(ガラス)は準安定相であるため、高強度のピンクビームを照射すると照射部分で結晶化が起こる問題が発生した。 そこで、SPring-8の従来の高強度X線を用いた時分割PDF解析によって、硫化物ガラスの液相合成過程の直接観察を試みた。統計精度に課題は残るものの、10秒毎のデータ取得にて異なる溶媒における合成反応を確認し、溶液中の錯体構造の安定性と固体電解質生成速度の相関性を明らかにした。液相合成において、硫化物固体電解質はアセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチルの順で、イオン伝導率が高くなる。PDF解析により硫化物固体電解質特有の2.0 Aに存在するピークの形成について時間依存性を評価したところ、イオン伝導率が高いものほど固体電解質も早い段階で形成される傾向にあった。 当該内容は、Physica Status SolidiB: Basic Solid State Physics誌(2020, Vol. 257, 2070041 )にて掲載された。また、同誌のInside Front Cover Pictureにも選定された。
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