本研究の目的は,ダイヤモンド表面にフェムト秒レーザー照射を行うことにより改質を導入し,その後,イオン注入を行うことにより,ダイヤモンド表面へのイオン導入を容易化すること,と設定していた。 研究の第一段階として,ダイヤモンド表面へ様々な条件でフェムト秒レーザーを照射し,導入される改質部の様相,特にその結晶性について透過電子顕微鏡(TEM)を用いて調査した。その結果,改質部が結晶性を保つために必要なレーザー照射条件を解明した。 第一段階で求めた条件で表面改質を導入したダイヤモンドに対して,高温(600℃)および室温でホウ素イオン(B+)注入を行った。ダイヤモンド表面から深さ方向へのB+分布を二次イオン質量分析(SIMS)により測定した。SIMS測定の結果,レーザー非照射部でのイオン濃度を基準として,照射部におけるイオン濃度は,室温注入の場合で最大6倍,高温注入の場合は最大で10倍に達することが分かった。また,SIMS測定後の試料からTEM試料を作製し,ナノビーム電子回折を用いて,レーザー照射部における結晶性を確認した。 以上により,フェムト秒レーザー照射によるダイヤモンド表面への改質導入は,その後のイオン導入を容易化すること,および,イオン注入後のダイヤモンド表面の結晶性に悪影響を与えないことを明らかにした。同時に,イオン注入の際にダイヤモンドを高温に保つことで,イオンの拡散が促進されること,および,高温注入はダイヤモンドの結晶性を保持することに役立っていることを,TEM観察により明瞭に示すことができた。
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