本研究では,固液間の表面張力および樹脂の粘性力の比としてあらわされる毛管数をミクロスケールの樹脂浸透挙動をあらわすパラメータとして,毛管数がマクロスケールで評価される繊維に対する樹脂浸透性の独立した影響因子である可能性を実験的に評価,検証することを目的とした.2020年度の取り組みでは,種々の樹脂において温度および圧力条件を調整することで毛管数を変化させ,毛管数の変化と浸透性の相関性について実験的に評価した.その結果,毛管数の変化に関わらず浸透性はほぼ同一値を示し,両者の相関性はないと結論づけることができた.当初計画した研究目的は,以上でほぼ達成できたと考えられる.したがって2021年度の取り組みでは,これらの結果をさらに発展的させ,種々の樹脂が同一の毛管数となる温度および圧力条件下において,繊維織布に対する表面処理条件を変化させた場合の浸透性について実験的に評価をおこなった.その結果,毛管数は同一であるため,樹脂が異なる場合においてもミクロスケールの樹脂浸透挙動は同一となるが,表面処理条件の相違により,浸透性は異なる値を示した.具体的には,表面処理濃度を増加させると浸透性は低下する傾向を示した.その原因として,繊維表面の表面処理剤分子と樹脂との相互作用が増加するに伴い,樹脂流動における抵抗(エネルギ損失)が増加するためと考えられる.したがって,表面処理条件は浸透性に対し相違を与えるパラメータであることが示唆された.これらの成果を日本複合材料学会誌に投稿予定である.
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