研究課題/領域番号 |
19K05045
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研究機関 | 久留米工業高等専門学校 |
研究代表者 |
森園 靖浩 久留米工業高等専門学校, 材料システム工学科, 教授 (70274694)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉄鋼材料 / 浸炭 / 鉄粉 / グラファイト / 拡散 |
研究実績の概要 |
浸炭は,鋼に対する代表的な表面硬化法である。工業的には「ガス浸炭」が主流となっている一方,実験室レベルでは,鋼片と浸炭剤(木炭+炭酸バリウム・炭酸ナトリウム)を容器に入れて密封し,鋼のオーステナイト域にて加熱・保持する「固体浸炭」が最も簡単である。 ところで,我々の研究グループは,鉄粉と炭素粉から成る粉末中に鋼片を埋め込み,大気中で加熱・保持することで,鋼中への炭素拡散が生じることを見出した。“粉末に埋め込む”という操作は「固体浸炭」をイメージさせるが,①容器を密封させる必要はなく,②促進剤である炭酸バリウムなどを添加しなくて済む,などといった特徴がある。本研究では,この新規の浸炭法の詳細を理解し,新しい浸炭技術として確立することを目指して調査を開始した。初年度(2019年度)は,以下の2つの項目に対して調査を行った。 【炭素の輸送経路の解明】市販の鉄粉(<0.03 mass%,粒径10ミクロン以下)とグラファイト粉を所定の体積比で混ぜ合わせ,その中に純鉄片(0.003 mass%C)を埋め込み,大気中,1273 K,3.6 ks保持した後,室温まで炉冷した。加熱雰囲気として,大気以外に窒素フローや高真空も採用した。グラファイト粉から純鉄中への炭素の拡散は,一酸化炭素といった気相を介した経路だけではなく,固相状態でも直接的に行われていることを確認した。 【鉄粉の働きの明確化】鉄粉15 gとグラファイト粉1.5 gから成る混合粉の作製に際し,炭素量・粒径・形状が異なる6種類の鉄粉を準備した。それらの混合粉に純鉄片(0.003 mass%C)を埋め込み,大気中,1073 Kまたは1173 Kの温度域に3.6 ks保持後,炉冷した。純鉄中への炭素の拡散によって生じるパーライト組織に注目すると,その面積は鉄粉の種類に依存して大きく変化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「科学研究費助成事業 交付申請書」には,2019年度の研究実施計画として【炭素の輸送経路の解明】と【鉄粉の働きの明確化】の2つに重点を置いて取り組むことを明記している。 【炭素の輸送経路の解明】2019年度の成果として,グラファイト粉から純鉄中への炭素の拡散は,一酸化炭素といった気相を介した経路だけではなく,固相状態でも直接的に行われていることを確認できたことが挙げられる。炭素がグラファイト粉から純鉄へ直接移動することが事実であれば,純鉄片と鉄・グラファイト混合粉の間に“鉄粉を含まないグラファイトのみから成る領域”を設けることで,炭素の移動が妨げられる可能性がある。その結果,炭素拡散によって純鉄内部に形成されるパーライト量に変化が生じることになる。仮に,一酸化炭素のような気相を介した浸炭現象だけが発現するのであれば,そのような変化は起こらない。このようなアプローチも今後重要になると考えている。 【鉄粉の働きの明確化】炭素量・粒径・形状が異なる6種類の鉄粉を使って鉄・グラファイト混合粉を作製し,純鉄中でのパーライト形成に及ぼす影響について調査した。その結果,鉄粉の種類によってパーライト量に差が生じることを確認した。今後,「なぜ,鉄粉とグラファイト粉を混ぜ合わせた粉末を使用することで浸炭現象が発現するのか?」といった本質的な疑問に答えるためのデータを収集することになる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,【炭素の輸送経路の解明】や【鉄粉の働きの明確化】について引き続き取り組むと共に,【新・浸炭システムの構築】についても検討を始める。 【炭素の輸送経路の解明】鉄・グラファイト混合粉と純鉄片の間に,“鉄粉を含まないグラファイトから成る領域”を設け,炭素拡散によって純鉄中に形成されるパーライト組織への影響を調査する。また,定量的な評価を行いやすくすることを目的に,通常使用している丸底型のツルボを円筒型のものに変更することを検討する(ツルボの価格は約10倍高くなる)。 【鉄粉の働きの明確化】前年度に続き,炭素量・粒径・形状が異なる6種類の鉄粉を使って,鉄・グラファイト混合粉による純鉄片への浸炭を試みる。ここでは,熱処理前後における鉄粉の表面・断面の変化に注目し,「高温下で鉄粉とグラファイト粉が接触することで,なぜ浸炭現象が発現するのか?」といった疑問に対する解決の糸口をつかむことを目指す。 【新・浸炭システムの構築】鉄・グラファイト粉を使用した鋼の浸炭実験は,多くの場合,大気中で行っている。この時に鋼片の著しい酸化が抑えられているのは事実であるが,その影響を完全に無視することはできない。そこで,ロータリーポンプによる低真空下(1 Paレベル)での浸炭実験について検討する。浸炭処理中は炉内のガスが常に排気され続けることになるので,【炭素の輸送経路の解明】に対しても有益なデータとなることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の残額は26,200円であった。研究実施のための備品・消耗品を十分に購入できたため,残額を次年度の消耗品・旅費として使用することが適切と考えた。
2020年度の研究費は『消耗品費』・『国内旅費』・『その他』として使用する。『消耗品費』では,「金属素材」をはじめ,試料の切断・研磨作業に用いる「ダイヤモンド砥石・研磨剤」,研磨後のエッチング等に用いる「化学薬品」,熱処理に要する「ルツボ」などが主たる購入物品である。また『国内旅費』では,日本金属学会の講演大会(年2回開催)に参加し,成果発表や情報収集を行う予定である。『その他』の項目からは,論文誌に発表するための「研究成果投稿料」を支出する。
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