鋼の浸炭は,その表面から炭素を拡散浸透させた後,焼入れ・焼戻しを行うことで表面部を硬化させる技術であり,鉄鋼材料に対する代表的な表面硬化法である。高炭素含有の浸炭用ガスの中で加熱・保持する「ガス浸炭」が工業的に用いられる一方,鋼片と浸炭剤(炭酸バリウムなどの促進剤を木炭に混合したもの)を入れた容器を密閉して熱処理する「固体浸炭」は,簡便ながらも量産品にはほとんど利用されなくなった。 我々の研究グループは,鋼片を鉄粉とグラファイト粉から成る混合粉に埋込み,大気中で高温に保持することで浸炭現象が発現することを見出した。本研究課題は,これを新規の浸炭技術として確立することを目指したものである。“粉末に埋込む”という操作は上述の「固体浸炭」と同じであるが,容器の密閉が不要で,促進剤を使用しないといった点は「固体浸炭」より利便性が高い。なお,本法には鉄粉の存在が不可欠であるため,「鉄粉浸炭」という名称を付している。 2021年度は,【新・浸炭システムの構築】に向けたアプローチとして,熱処理した後の試料の回収作業の改善について検討した。これは,鉄・グラファイト混合粉が熱処理によって焼き固まり,その中の鋼片に粉末が焼付くためである。そこで,粉末の焼結防止に役立つアルミナ粉を添加し,その有効性を調査した。鉄粉とグラファイト粉を体積比1:1で混ぜ合わせたものを基準粉末とし,この基準粉末にアルミナ粉を所定量添加して混合粉を作製した。この中に低炭素鋼板を埋込み,大気中で900℃付近に加熱した。結果として,アルミナ粉の割合が多い場合には,混合粉内部の雰囲気が“浸炭”から“脱炭”に変化することを突き止めた。すなわち,鉄粉・グラファイト粉・アルミナ粉の割合を変化させることで,浸炭・脱炭を意図的に操作することが可能になり,新たな技術として期待できる。
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