研究実績の概要 |
COVID-19の影響でAl-Mn合金のARBを行うことが困難であった.そのため,引き続きAl-Ni合金のARBに伴う電気抵抗率の変化,力学特性,組織変化に関して調査を行った.特に,XRDを用いた転位密度の定量を行った.その結果,ARB1サイクルにおいて,転位密度は約10^14(m^-2)まで上昇し,その後は飽和していることが判明した.また,電気抵抗率の増加に関しては転位密度はあまり影響しておらず,主に粒界密度の上昇がARB2cからARB4cにおける値の急激な増加に対応していた.力学特性に関しては,ARB4cまでに急激に増加した後,緩やかに増加している.こちらに関しても,転位密度の寄与は小さく,主な原因は板厚方向の粒界間隔の減少に対応したいた. これらの結果から,Al-Ni合金に関してはARBによって強度が数倍に上昇するにも関わらず,電気抵抗率の増加は数十%の増加に抑えることができることを明らかにした.これは,強度・導電性のバランスに優れた軽量アルミニウム合金を開発する上で,本研究で用いたような遷移金属元素を少量添加するという方針が正しいことを示している. 最近,Zhangらは,スパッタを用いたAl-Ni固溶体合金が極めて高い強度を示すことを明らかにした[Nanoscale, 2018, 10, 22025].ARBのような巨大ひずみ加工を施すと析出物が強制固溶されることはよく知られており,本研究で扱っているような1%以下の遷移金属濃度より高濃度の遷移金属を合金添加として添加することは,より優れた強度・導電性のバランスに優れた合金開発に有効である可能性が高い.
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