研究実績の概要 |
弾性的な体積変化を利用した熱スイッチング材料の実現にあたり, 弾性的に圧縮・回復する超軽量材料の作製が求められている. これまでに, カーボンナノチューブ(CNT)とカルボキシメチルセルロースナトリウムにより作製した超軽量材料の, 組成, 密度, 構造を制御することによって弾性回復する軽量材料を作製してきた. しかし, 吸湿性の高分子材料を使用しており, 材料内に水が吸着するため, 周囲環境の条件によっては十分に回復しない場合がある. したがって, 材料内部を疎水化することで, 弾性回復しやすくすることを目指した. 本年度は超軽量材料の多孔体壁を表面修飾することで疎水化した. アルキル系シランおよびフッ素系シランを表面修飾に用いた. その結果, アルキル系シランでは, 弾性回復する割合が高まった. 圧縮時および回復時の熱伝導率評価を熱流計法により行った. 密度2.5mg/cm3の試料では, 非圧縮試料に対し, 体積を1/3に圧縮することで, 総熱伝導率が0.062 W/m・Kから0.12 W/m・Kと変化した. また, 5 mg/cm3の試料では, 総熱伝導率が0.16 W/m・Kから0.20 W/m・Kと変化し, 約0.04 W/m・K上昇した. 密度10 mg/cm3では, 総熱伝導率が0.17 W/m・Kから0.25 W/m・Kと変化し, 約0.08 W/m・K上昇した. なお, 密度2.5 mg/cm3でのみ非圧縮時の体積の20分の1に圧縮を行ったが, この時の総熱伝導率は0.12 W/m・Kとなり、3分の1に圧縮した時と近い値をとった. 断熱性は高いのに対し, 圧縮時に目指した高熱伝導率が低く, 今後改善が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初, 目的としていた弾性回復が, 材料内の表面修飾により, 周囲環境の条件によらずできるようになった. また, 非圧縮時と圧縮時の熱伝導率測定を行い, スイッチング性能の評価に至った。改善すべき課題はあるが, 順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
現状, 弾性回復挙動としては, 80%程度回復するところまで実現できている. 今後, 素材の改質や組成, 表面修飾を組み合わせることで, 100%回復する材料を目指す. また, 伝熱の課題として, カーボンナノチューブ自体の熱伝導率は高いものの, CNT間の接点の熱抵抗等によって十分な熱伝導率が得られない. これを解決する方法を検討する.
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