研究課題/領域番号 |
19K05068
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
染川 英俊 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, グループリーダー (50391222)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 材料工学 / マグネシウム / 粒界偏析 / 変形機構 / 粒界塑性 |
研究実績の概要 |
昨年度創製したMg三元系合金押出材を対象に、内部摩擦試験と引張試験により弾・塑性変形応答を評価した。内部摩擦試験では、温度と周波数を変数とした。周波数に関係なく、損失係数は微量添加元素によって大きく変化し、BiやZr添加合金は大きな損失係数vs.温度依存性を示し、Ca添加合金の損失係数は温度に対して鈍感であることを確認した。損失係数は、粒界粘弾性挙動と密接な関係があるため、損失係数の温度依存性は、粒界すべり促進、抑制を示唆する知見である。 引張試験では、温度と引張ひずみ速度を変数とした。内部組織構造の安定性から、試験温度は室温から150℃までとした。内部摩擦試験の結果と同様に、微量添加元素は、力学特性や塑性変形応答に影響を及ぼし、BiやZr添加合金は優れた破断伸びと大きなひずみ速度感受性指数を示した。一方、Ca添加合金は大きな降伏強度(流動応力)を呈しながらも、ひずみ速度感受性指数は小さいことを確認した。また、各種引張試験後の表面SEM観察より、BiやZr添加合金は明瞭な粒界すべりの痕跡を示すことを確認した。引張試験で確認した微量添加元素の影響は、内部摩擦試験の結果と極めて類似し、BiとZr添加は粒界すべりの促進、Ca添加は粒界すべりの抑制に寄与するといえる。 議論を簡便化するために、本研究課題で使用している三元系押出材の内部微細組織は、結晶粒サイズや集合組織など主影響因子が同じであることを大きな特徴としている。初年度実施した微細組織観察結果より、微量添加元素が結晶粒界に偏析していたことから、粒界すべりの促進または抑制は、主として粒界偏析元素が要因と考えられる。粒界すべりに対する添加元素(および粒界偏析)の役割が二元系合金と同じであることは、極めて興味深い結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の本年度研究計画では、三元系展伸バルク材の力学特性評価を予定していた。幅広い温度、ひずみ速度条件下で引張試験を実施し、変形応答に及ぼす外的因子および微量添加元素の影響を調査、理解することを目的としていた。コロナ禍により、一部試験法の変更を余儀なくされたが、当初計画していた合金種、試験条件(温度、ひずみ速度)のデータ取得が終了し、微量添加元素の影響について明確にしている。他方、変形組織観察に基づく十分な考察と、計算科学援用による物理定数の取得には至らなかったが、制限された研究環境下にての成果取得と成果発信を鑑みて、「概ね順調に進んでいる」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
ジャンプ試験(本年度実施)によって代替した低速度域における塑性変形応答を再取得するため、定ひずみ速度引張試験を実施する。これら巨視的変形応答と初年度取得した微視的変形応答を比較し、微量添加元素と粒界塑性の相関性について検証する。また、巨大延性を示す三元系引張試験試料を対象に、SEM/EBSDとTEMを併用し、変形機構に及ぼす結晶粒界の役割を調査する。両結果より、室温・従来粒界すべりを包括した変形モデルの提案を図る。また、結合エネルギー等の材料定数に関しては、モデル化のみで終わってしまったが、計算科学を引き続き活用し、デュアル粒界偏析を促進/抑制する添加元素予測への援用を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、「旅費」と「その他費」に計上していた予算に差額が生じた。「旅費」について、成果発信として考えていた学会等が中止またはweb会議開催となり、当該経費に差額が生じた。「その他費」では、変型機構解明のために、幅広い速度域で定ひずみ引張試験を予定していた。しかし、低ひずみ速度域に関する試験は、研究室閉鎖に即座に対応でき、時間短縮が可能なジャンプ試験に切り替えた。そのため、試験片数が当初計画よりも少なくなり、試験片加工費に差額が生じた。 変形機構を詳細に議論するためには、変形組織観察は必要不可欠である。差額費用は、特に使用頻度の高いSEM/EBSDとTEM等の機構内共用装置の使用費等に充当し、研究の加速と研究議論の深化を図る。また、本年度、ジャンプ試験に代替した低速度域における塑性変形応答を再取得するため、定ひずみ速度引張試験用の試験片加工費に充当する。次年度は、本研究課題最終年度である。成果発信に関して、聴講者が限定されがちなweb会議に限らず、多様な読者を対象とした国際学術誌への投稿を積極的に併用することを検討しており、英文校正費等に充当する予定である。
|