研究課題/領域番号 |
19K05069
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
海老原 健一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (40360416)
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研究分担者 |
鈴土 知明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (60414538)
松本 龍介 京都先端科学大学, 工学部, 准教授 (80363414)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水素脆化 / 水素助長ひずみ誘起空孔モデル / 分子動力学 / 反応拡散方程式 / 昇温脱離スペクトル / 空孔クラスター / 機械学習ポテンシャル / き裂進展 |
研究実績の概要 |
鉄鋼材料の遅れ破壊は水素脆化が原因と考えられていることから、その機構の理解に基づく水素脆化の予測・予防が望まれている。水素脆化機構の1つとして、水素とひずみで生成された空孔や空孔クラスターの空孔型欠陥そのものを要因とする水素助長ひずみ誘起空孔(HESIV)モデルが実験事実に基づき提案されている。しかし、その具体的な素過程は明確でなく実験による定量的評価も困難である。そこで、本研究では原子レベルでの計算科学的な手法を用い、空孔型欠陥の挙動及びその水素トラップ挙動を考慮した反応拡散方程式から水素脆化条件下で生成される空孔型欠陥のサイズ分布を明確にする。さらに空孔型欠陥のき裂への影響を原子レベルから解析することで脆化が生じる空孔型欠陥のサイズを明確にし、HESIV モデルを検証することを目指している。 本年度は、EAMポテンシャルによる分子静力学計算で評価した空孔及び空孔クラスターと水素との結合エネルギーを組み入れた反応拡散方程式に基づく、前年度までに開発したコードを用いて、ひずみ誘起空孔の生成に寄与した水素の昇温脱離スペクトルの再現を試みた。その結果、脱離スペクトルのよい再現には至らなかったが、前年度同様、空孔の他に空孔クラスターが昇温前に存在している方が、比較的実験スペクトルに近い結果が得られる可能性があることが分かった。また、α鉄における粒内割れに対する分子動力学シミュレーションでは、き裂先端付近での転位の射出について、より高精度化された機械学習ポテンシャルを用い検討した。その結果、実験と同様の結晶面でへき開が再現されるものの、転位の射出などの塑性変形が見られなかった。また、いくつかの対称傾角粒界に対する計算においても、転位の射出が見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度において、ひずみ誘起空孔の生成の助長に使われた水素を放出した後、試料に改めて添加したトレーサー水素の昇温脱離スペクトルの再現を行い、実験スペクトルに比較的近い結果を得た。今年度は、ひずみ誘起空孔の生成に寄与した水素の昇温脱離スペクトル再現に同様のコードを適用したが、よい結果を得られなかった。これは、計算条件やパラメータが適切でないためと思われる。また、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により、当初参加を予定していた国際会議が中止となった。以上のことから、当初の計画より遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
水素脱離スペクトルの再現において、これまで可変として扱わなかったパラメータを含め、より広い範囲において計算条件の探索を実施する。き裂進展の分子動力学シミュレーションにおいては、転位射出(塑性変形発生)の条件や機構を調査する。また、当初予定していた国際会議とは異なるが水素脆化に関する国際会議に参加発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で予定されていた学会や国際会議が中止となったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、発表用PC、データ保存用ハードディスク、研究用備品の購入、及びR4年度に開催予定の国内外学会への参加に係る費用として使用する予定。
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