研究課題/領域番号 |
19K05072
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐野 泰三 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (30357165)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光触媒 / 水素発生 / フッ素樹脂 / 窒化炭素 |
研究実績の概要 |
g-C3N4上にπ電子系を有する有機分子を担持すると、光触媒的水素発生速度に変化が見られたことから、有機分子が水素発生助触媒として作用していると推察し、各種の有機分子をg-C3N4に担持し、水素発生速度を解析してきた。活性を示した分子の多くは溶解度の低い分子であり、また、疎水基と親水基の両方を有した。 しかし、観測される水素発生速度の再現性が低く、担持量や詳細な分子の特徴と水素発生速度の関係を明らかにできなかった。また、同様に調製したはずのg-C3N4でも、活性のばらつきが確認された。そこで、その原因を探ることで、水素発生速度に与える新たな因子を探索することにした。 電子顕微鏡や多くの分光法では明瞭な差がみられなかったが、X線光電子分光法(XPS)により、水素発生活性の高いg-C3N4には微量のフッ素原子が含まれることが確認された。攪拌に用いたホモジナイザーの軸受けに用いられているフッ素樹脂(PTFE)が削られて混入したものと考えられた。 そこで、g-C3N4にフッ素樹脂を意図的に混合し、活性の変化を解析した。メノウ乳鉢にフッ素樹脂(PTFE)スプレーを吹き付け、g-C3N4を加えて混錬した。犠牲材存在下での水素発生速度は有意に向上し、フッ素樹脂添加量と水素発生速度の間に相関が見られた。また、フッ素樹脂を添加したg-C3N4で光電極を作成し、電気化学セル内で光を照射したところ、明瞭な応答が確認された。 フッ素樹脂を添加したg-C3N4の水接触角を測定したところ130度という大きな値を示し、無添加のg-C3N4(水が浸み込んで接触角を測定できない)と比較して疎水性が増したことを示した。フッ素樹脂の添加により、窒化炭素の2次粒子が疎水性となり、2次粒子内部やテフロン周辺に水(および犠牲剤)が存在しない空間が形成されたことで、水素発生速度が向上した可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
水素発生速度の再現性が低く、当初想定していた有機分子触媒の有効性が揺らいできたため、触媒の合成の最初のステップである窒化炭素の合成から、不純物の影響を改めて洗い直した。これにより、フッ素樹脂の影響を発見するに至り、g-C3N4の理解を深める上では重要な成果になると期待しているが、本研究課題の進捗としてはやや遅れていると認められる。
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今後の研究の推進方策 |
g-C3N4の光触媒的水素発生速度に与えるフッ素樹脂の効果を詳細に解析し、水素発生機構を解明を目指す。 電子顕微鏡(元素マッピングの可能なもの)や各種の分光法を用い、g-C3N4とフッ素樹脂の混合状態、積層構造、電子構造、活性種生成能、蛍光寿命の変化などを解析する。また、光触媒電極を作製し、水素発生反応の酸化還元電位測定を行う。 以上の解析を通してフッ素樹脂を添加したたg-C3N4の結晶構造、電子構造を明らかにし、構造と水素発生速度の相関を解析することで、水素発生機構を解明する。この際に、粒子の濡れ性にも着目し、他の光触媒系にも応用できそうであれば検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子顕微鏡観察をするサンプル数が予定より少なかったこととと、新型コロナウィルスの影響により学会に出席できなかったことで次年度使用額が生じた。次年度の観察サンプル数を増やすとともに、学会発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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