安息香酸を吸着(担持)したグラファイト状窒化炭素(g-C3N4)が犠牲剤存在下で光触媒的に水素を発生したことから、有機分子とg-C3N4のπ共役系が作用して水素発生の活性点となるメカニズムが存在すると仮定し、そのメカニズムの解明と高い活性の有機分子の探索を目指した。最終的に、高い活性を与える有機分子は見つからず、予備実験で見られた水素発生活性の大部分は、合成時にめのう乳鉢から混入した微量の金属に起因すると結論した。この経緯を示す。 始めに、各種の有機分子をg-C3N4に担持し、分子構造と光触媒的水素発生活性との関連を解析した。活性を示した分子の多くは疎水基と親水基の両方を有する溶解度の低い分子で、π電子系は必須ではなかった。ここで、同様に調製したはずのg-C3N4の活性が一定しない問題があった。X線光電子分光法により、活性の高いg-C3N4にはフッ素原子が含まれ、合成容器等のフッ素樹脂(PTFE)が混入したと推察された。故意にフッ素樹脂をg-C3N4に添加すると活性が有意に向上した。フッ素樹脂によりg-C3N4の2次粒子が疎水性となり、水が存在しない空間が形成され、逆反応が抑制されて活性が向上したと推察した。先に行った、溶解度の低い有機分子を担持した場合にも同様の効果が存在したと推察した。 その後、フッ素樹脂や有機分子添加量をコントロールしたが、再現性は向上しなかった。最終的に、めのう乳鉢で金属を含むg-C3N4を磨り潰した後は丁寧に洗浄しても金属が残ること、フッ素樹脂が存在するとめのう乳鉢に残った金属を顕著に拾うこと等が明らかになった。以上から、時折観測された高い活性はフッ素樹脂がめのう乳鉢から拾った金属(特に白金)によるものと結論づけた。その後は方向転換し、窒化炭素へのホウ素ドープによる光吸収特性の制御を、合成手法の開発とDFT計算の両面から進めた。
|